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9.
類っ!?
ちがうっ!!うそっ!トーマスだよ!!でも、なんで~???
近場のレストランにて。
ガツガツガツガツ・・・・ググ・・ゴックン・・・ップ
「あいかわらずのブタ食いだね。」
「んん?」
食事を終了すると、サッとナプキンを手に口元を拭い、こざっぱりとした顔をこちらに向ける。
とたんに格好よく上品な俳優顔に戻るのが、毎回、どれだけ人をビックリさせるか自覚するべきだね。
「それにしても、つくしちゃん、ビックリしたよ~。
つくしちゃんは、桜子と一緒の大学生でしょ?まさかここで出会うなんてさ。」
ジャグリングの出番が終わるやいなや、私の所までツカツカやって来て、激しくハグして大騒ぎしてくれたこの男。
お陰で大注目を浴びたよ。
まあ日本より、その目は優しかったけど。
あいかわらず明るいキャラというか、ノリがよいというか、類のテンションとは雲泥の差なわけだけど、やっぱり、どことなく似てるんだよな。
「それで、アンタは大道芸で暮らしてるの?」
「あれはサイド・ジョブ。
演劇学校に通いながら、時々はエキストラとか出てんの。
ここでは、必死に夢を追いかけてるヤツがたくさんいるだろ、サイドジョブもたくさんね。
つくしちゃんにも、僕が紹介してあげるようか?サイドジョブ好きでしょ?」
「あ~、はは、サンキュ、とりあえず。
でも、すぐに日本に戻るから大丈夫。」
「折角来たのに、どうして?すぐ帰らなきゃ困る??
道明寺さんとこにいれば、ご飯もホテル代もタダでしょ?」
「そういう問題ではないの。
第一、 道明寺は忙しいし、ちょこっと会えればそれでいいの。」
「恋人の胸に飛び込んじゃえばいいのに、離れちゃいけないんだよ。」
「・・・。」
「wish you were here ♪~」
BGMのサビを歌い出すトーマス。
こいつに私の素直じゃない思考回路を理解させようというのは無謀かもしれない。
「こういうカップルもありなのよ。
二人で決めて、納得済みなんだから、それでいいの。」
「wish you were here ♪~ そういうもんかな~?」
「あんたに意見されるとは思わなかったよ。」
その時、ガラスの向こうに華やかな赤いダリアみたいな女の子が立ち、窓ガラスに手をパーにして注意を引いていた。
「あっ、ローズ!」
気付いたトーマスを認めると、すかさず店内に入ってきたそのダリアの花。
名前はダリアじゃなくて、ローズっていうのね。
はねっ気のある赤毛にグリーン・アイの女の子は、トーマスのわき腹に腕を差込みぺタッとくっつくやいなや、英語でまくしたてた。
どうやら責められているトーマス。
ペラペラペラペラ。
ペラペラペラペラ。
弁解して、責められて、弁解して・・・るように見えて、ようやく落ち着いた。
「古い友達だって言ってるのに、こいつヤキモチ妬いたね。
ボクのこと大好きだから。」
そう言って、私に肩をすぼめて見せた後、彼女に向きなおり抱き寄せる。
「大丈夫、わかってくれたから。
あっ、紹介するよ、一緒に住んでるガール・フレンドのローズちゃん。
といっても、俺達、運命的な出会いだったんだよ。
タイで出会って、ずっとくっついて来られて、ここまで押しかけて来た怖い人。
だから、一緒にいるんだ。」
「はあ~。」
「Hi !」
「good girl」
そう言いつつ、彼女の首筋にドラキュラがガブリと噛み付くようなHっぽいキスをした。
「つくしちゃんとは違うタイプ。
でも、俺、こいつのために頑張れるから大事にしてる。」
トーマス、あんたは女に敷かれるタイプだったのね・・・やっぱりね・・・と思いながら、頷くしかなかった。
時間が来たので、そこで別れることになったけど、ちょっぴり寂しく感じた。
「つくしちゃん、お勉強がんばってね~。あと、色々とね~。」
トーマスは手を振り、ローズさんとメトロ乗場へ降りて行った。
突風のような強烈な再会、二人の残像が頭から離れない・・・。
それから、道明寺本社ビルに戻ると、例の受付嬢があわてたように立ち上がり、ブースから出てくる。
「牧野様、先程は失礼致しました!
お待ちしておりました、どうぞ、こちらへ。」
エレベーターホールへと通され、連れて行かれたのは上層偕。
扉が開くやいなや、男の人が出迎えてくれた。
「牧野様、ようこそ、こちらへ。」
言われるまま付いていく。
木製のドアが開くと、強い存在感を放つ男からの視線が突きささってくるようだった。
『うわっ、道明寺!』
「後はいい、下がれ。
呼ぶまで誰もここには通すな。」
「はい、かしこまりました。」
ドアが閉まるやいなや、立ち上がり、機敏にこちらへやって来るシルエットは、ブラインドウから差し込む西日に照らされ美しく輝いていた。
パリッとしたダークグレイのスーツ姿、ネクタイだって全く違和感無し。
どっからどうみても、ビジネスマンで、それも一流っていう風格すら感じられた。
真っ直ぐにこちらを見つめる眼差しはあの頃の眼差しと少しも変わっていない。
くっきり真っ直ぐ見据えられると、こちらの鼓動が高鳴ってしまう、そして、骨ばった鼻筋陰影があいかわらず、あいつの鼻の高さを見せ付けるように美しく落とされていた。
「っ、道明寺・・・久し」
「ド阿呆!!お前はあいかわらず、くだらないこと考えてんな!
来るんなら、早く知らせろ。
こっちも暇な立場じゃねえってことくらい、わかってんだろうが!!」
にこやかに笑いかけようとした口元も、広げた掌も、いきなり怒鳴られてショボンと萎れた。
「何よ!久しぶりの再会なのに、言い方ってもんがあるでしょうが!
大人になったと思ったら、格好だけなの?」
あいかわらず、カチンと来る。
まあこういうストレートな男だから、ここNYでやっていけるのか。
「はあ~?」
ややあって、深い溜息が聞こえた。
「今頃は3ブロック北にあるBNPビルで、お偉さんとアジア投資拡大について話してるはずだったし、その後はすぐ、シャトルでロスに飛ぶ予定だった。
明日の朝から予定は夜までギッシリ詰め込まれてる。
そこへだな、お前が急に現れて、引っ掻き回しやがって。」
「折角来てあげたのに、いきなりその挨拶?
それはすみませんでしたね!迷惑だったら帰るよ!」
すると、突然、大きな腕が私の体をスッポリ包み込み、道明寺の仕立ての良さそうなスーツの中に納まるように閉じ込められた。
懐かしい道明寺の匂いだ。
「アっ。」
ギュギューーッと力を込めて全身を抱きしめられた。
道明寺の体温と思いの丈が、髪の毛越しに伝わって熱く感じる。
身体から徐々に力が抜けて、抱きしめられるまま体を預ける心地よさを思い出した。
「文句と謝罪は、秘書に言え。」
「んん・・・////。」
「牧野・・・。」
「・・・。」
「ありがとう。」
「うん・・・。」
掠れたような小さな声が耳元に落ちてくる。
「・・・このバカが・・早く教えてたら、も少しは長く居られた。」
「やっぱり、少しだけしか?」
「ああ・・・俺の立場をわかってるのか怪しいな・・っふ。」
身体を離し、覗き込むような姿勢で顔を寄せられる。
久しぶりにじっくり見られて恥ずかしい。
「明朝、発たなければいけない。
時間をずらすまでが、最大限の変更だった。
俺が戻ってくるまで待っていられるよな?」
「無理だよ、それは。
明後日のチケット買っちゃったし。」
「キャンセルしろ、なんとでもなるだろうが。」
「明日の朝まで一緒に居られるんでしょ?
なら、話もできるし充分だよ。」
「なんだよ、それ。
恋人と再会して、それだけで満足かよ。」
「だって・・・。」
「それはそうと、お前、なんでメールの返事してこねえ?」
「へ?ああ~、道明寺にもらったパソコン?
あれ、壊れちゃったみたいで使えない状態のまま、修理か新しいのか考えてる。」
「はあ???言ってこいよ、んな事はとっとと。時差があるし、空き時間もマチマチだし、必要不可欠だろ。」
「んなこと言ったって、あんた、全くメール送ってこなかったじゃん。」
「あれは前だろ、ったく・・・ああ~、時間がもったいねえ、ホラ、行くぞ!」
そう言った道明寺は、急いで残務を片付け、私の手首を握るとエレベーターホールまで引っ張っていた。
着いた先は道明寺邸。
相変わらずの大きな豪邸なのに、お母様もお父様も不在で、道明寺自身も久しぶりの帰宅だというし、何てもったいないことなのかと思う。
それから先はあっという間の時間だった。
夕食中にポツリポツリと近況報告を出し合い、道明寺の激務を垣間見た。
「あんた、それでよく倒れないよね、犬並みというのかな。」
「お前にそれだけは言われたくない。」
ベットルームは別々だった。
けれど、朝目覚めると、道明寺が横でスヤスヤと眠っていた。
夜這いに来たの?
何の記憶も残ってなくて、ものすごい罪悪感にさいなまれそう。
だってあの強烈な時差ボケには誰もかなわないでしょ、最高級ベッドに寝転ぶやいなや、全てを忘れ撃沈してしまったようである。
クルクルとした黒い巻き毛と高い鼻筋。
本当に久しぶりに、マジマジ見た。
精悍に引き締まった頬骨あたり、昨夜聞いた激務をこなしてるせいなんだね。
目覚ましのベルがけたたましく鳴る。
道明寺が仕事に戻り、私が学生へ戻る朝が来た。
重なり合った時間は余りに少なく、申し訳ないほどだったけど、久しぶりに会えた事は有意義で、頑張ってる道明寺がすぐ近くに感じられたのは収穫だった。
ミス・コネチカットとは、スクープされて以来会ってないらしい。
やっぱりビジネスのために、気も乗らないのにやったこと。
私もお勉強にお稽古にバイトに頑張ってる・・・そして、バスケットを始めたってことも告白した。
道明寺は眉を上げ、一瞬、不愉快そうにしたけれど、私の説明に納得してくれた様子。
「優紀と一緒に手伝ってる。」
ただし、それ以上の事は話せなかった。
つづく
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