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34.
それから一週間。
長い長い一週間だった。
ふらりと戻ってきた類。
聞けば、ボランティアに汗を流していたそうな。
桜子も滋さんも、優紀も。
西門さんも、美作さんも・・・どれだけ心配したと思ってんの?
腱鞘炎になるくらいメール打って、死体があがったって聞いたら、一応、確認して。
本当は私の方が、よっぽど、『消えてしまいたい!!!』って落ち込んでたのに、実際に類が消えちゃったから、全くそれどころじゃなくなった。
朝から真相を聞き出すために類を取り囲むらしく、私も連れてかれた。
直接、顔を見るのは、道明寺の再会パーティー以来で緊張する。
「おい、類。
今日はちゃんと説明してもらおうか?」
「だから、言ったでしょ。
山にボランティアしに行ってきたって。」
気が抜けるほど、飄々としたいつもの類が戻ってる。
安心したけど複雑。
「山ってなんだよ。」
「木こり。」
首をグルグル回しながら、類が眠たげに答える。
「環境保全のボランティアだってさ。
間伐したり、木槌をふり落としたりして、結構な力仕事だったよ。」
「お前、そんなことに興味あったんか?」
「いいでしょ、別に。」
「んじゃ、家の人にも内緒で行ったのはどういうことですか?」
桜子がイライラした口調で聞いた。
「うん、俺、連絡するの忘れてた。」
「「「「はあ~っ???」」」
「もう、知らない、気が抜けた!
類くんも、つくしも、それに、司だって電話に全然出ないし。
もう三人とも勝手にやって!って感じだよ。」
そう言って、滋さんは床に両足を伸ばして座り込んだ。
「道明寺さんとは?」
桜子がすかさず聞いた。
「司?うん、会ったよ。」
「「「「・・・・。」」」」
「思い切り、殴ってきた。俺、殴られっぱなしだったからね。」
へっ・・・!!??
「んで、また、ボコボコニ殴られて、おしまい。」
「「「「「・・・・。」」」」」
皆、事の真相がよくわからないといった感じで、身をのりだして聞いていた。
そりゃ、私たちの三角関係がどうなるのかも気が気じゃないよね。
そうだよね、ずっと見守ってくれた皆には私も言わなきゃならないことがある。
類の騒動で、パーティーの後日談はお預け状態のままだ。
驚かせたし、がっかりもさせて、きっと、心配してくれてるから。
「滋さん、ごめんなさい。
皆も・・・こないだの折角のパーティーを台無しにしてごめん。
でも、皆に隠していた事なんて何もないよ。
あれから、道明寺と話せたの。
嫌いになったわけじゃないし、裏切ってたつもりなんて一つも無かったけど、ただ、類が大事な気持ちは変わらない。
このまま道明寺との婚約を続けるわけはいかないって思ったの。
解消してもらった。
報告しておくね。」
「で、司は了解したんか?」
「・・・、少なくても、ちゃんと聞いてくれた。」
「やっぱり残念です。
わがまま通されて、道明寺さんがかわいそう。」
「まっ、結局は二人の問題だろ。
当事者でない俺らが口出し出来ることって、まあ、囃し立てることくらいだしな。」
「だからって、類さんと付き合いをするって、どうなんですか?」
「桜子、お前、自分の事は棚に上げてよく言うぜ。」
「私はいいんです。牧野先輩だから、応援してたのに。」
「ちょっと待って、類とは友達。これからも、ずっと!」
「なんだ、それ。訳わかんねえ。」
類の視線をバチリと受け止めて、しばらく無言で見つめ返す。
道明寺邸ではどんな話をしたのだろう?
それに、山?って・・・。
パンッ♪
私と類が見つめ合うのを、手拍子でプチっと切断したのは西門さん。
「お前ら・・・久しぶりだからって、そんなに乳繰り合うな!」
「はっ?・・・そんなことしてないでしょうが、西門さん!」
「なーんか、そう見えるんだな。
まあ、男と女がくっつくの離れるのって、ついて回ることだし。
どうしようもない事もある。
とにかく、俺らは見守るとするか。」
「けど、司、NYで暴れてるんじゃないか?」
「まっ、今度、様子見てこようぜ。どうせ、暇だし。」
「牧野、久しぶり。」
突然、類がお馴染みのニコリと優しい微笑みを口元に浮かべた。
ギョ。
「うん、久しぶり。」
「だよね、元気だった?」
そして、また、ほほ笑む。
なんだかスッキリしたように見えるのは気のせい?
「元気なわけないじゃん。でも、ちゃんとしてるよ。」
「うん、元気みたいだ。」
いっぱい聞きたいことがあったけど、ホッとしたから、嫌な質問はお預けにしようと思った。
「あ~、お腹すいた。」
「じゃ、気分転換に軽井沢の別荘でも行くか?」
「いいねえ~、ニッシー、そのアイデア賛成!!
行こうよ、皆で。」
「俺、行かない。
親父に自宅で謹慎しろって言われてる。」
「マジ??ハハハッ・・・謹慎処分って、中坊か??ハッハハハ、笑える。」
西門さんはお腹を抱え笑っている。
類もバツが悪そうに、唇を尖らせて拗ねているみたい。
悪いことをして類がお父さんに怒られるなんて、すごいレアな事なんだと思う。
でも、ちゃんと叱ってくれるお父さんなんだね。
良かった。
いいお父さんみたいで、本当に良かった。
「ねえ、じゃあさ、私、何か作ってあげるよ。
類、悪いけど、台所を少し貸してもらえるように頼んでくれない?」
「いいけど。」
「庶民食か?」
「っさい!黙って待ってな。」
結局、ホットプレートを借りて、類の部屋でお好み焼きを作ることにした。
臭いが付くから嫌だという類を黙らせたのは、私じゃなくて、滋さん達。
一度、そんなことをやってみたかったそうだ。
家のお手伝いさん達も、楽しそうに道具を運んでくれた。
「すみません、お手数をおかけして。」
「類さまがこんなに楽しいお友達をお持ちだとは知りませんでした。
あまりお話をして下さらないので。
最近は大きくなってしまって、どんなお友達がいらっしゃるのかと心配しておりました。」
類がそのお手伝いさんを、ジロリと睨んだ。
「ホホホ・・、類さま、申し訳ありません。
つい、おしゃべりが過ぎましたね。」
お手伝いさんの中に、年齢は40代後半くらい。
一人だけがエプロンの柄が真っ白じゃなくて、オレンジのお花がいっぱいプリントされたものをしている人がいて、嬉しげにそう答えてくれた。
きっと類の身の回りの世話をずっとしてくれている人なんだろう。
お母さんがいない類にとって、ひょっとしたら、この人は一番お母さんに近い存在なのかもしれない。
「良かったら、一緒に食べませんか?
類も了解してますし、ねっ!そうだよね、類?」
そう言って、類に同意を求めた。
「いいえ、いいえ、とんでもない。
まだ、他の仕事も残っていますし、失礼します。
牧野さま、有難うございます。
この家にこんな日がくるなんて。」
どうみても、その人は目をウルウルさせている。
「また、是非いらしくださいませね。」
リアクションに対し、モゴモゴと恐縮しているうちに、お手伝いさんたちは皆、下がってしまった。
「あ~あ、類のこと、色々と聞こうと思ったのに残念。」
またもや、ムスッとしている類。
「さあ、焼きまくるよ!」
私はグッと袖をまくりあげて、気合を入れた。
つづく
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