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HappyEverAfter

花沢類x牧野つくし

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Happy Ever After 8
happyeverafter08

8.

桜子と大学のカフェでランチしながら、いつものたわいない話をしてた。

「社会人の飲み会って、居酒屋でとりあえずビールって感じでしょ?」

「まっ、そんな感じだったね。
あたしは飲まなかったけど。」

「先輩が楽しんでるようなので、何も言いませんけど、もし、道明寺さんが側にいたら全くもって、許される状況じゃあないことだけは理解しておくべきですよ。」

「そーかな。
スポーツだよ、何も不埒なことしてないもん。」

「先輩、のめりこんでる感じですもん。
あの道明寺さんが黙っていられると思います?先輩がどうしても続けたいって言うんなら、自分のチーム作っちゃうかもしれませんよ。
先輩はそこの専属マネージャーでね。」

「げっ、あいつなら大げさに聞こえないところが怖いわ。」



そこへ、お祭りコンビの西門さんと美作さんがやってきた。

「おうっ、牧野、司に連絡とった?」

「えっ?」

西門さんがすぐ横の椅子をサッと引き、その背もたれに向かう形で、大きく跨いで腰掛ける。
その身のこなしもスマートで、西門さん目当ての女の子なら溜息ものだろう。
グーッと顔が近づいてきて、それは本当に端整に整ったお顔立ちで、黒髪もサラサラしていて私なんかよりずっと手入れが行き届いてる。

「近いよ!西門さん///それで、道明寺が何?」

「お前ら、まだ付き合ってんだろ?長いこと、電話すらしてないそうじゃないか。」

「ん・・・まあそうだけど。」

「俺さ、先週、青年部の仕事でNY行って来たんだわ。
ついでに司と飯でもって思ったんだけどよ、あいつ、マジで忙しいんだな。
携帯でようやく連絡が取れて、言われるままマンハッタンのオフィスに行ったんだけどよ、奥の部屋に通されて、そこで司、点滴してたんだぜ。」

「えっ??点滴って、あいつ病気になってるの??」

「いや、栄養補給だとか言ってた。
点滴中はゆっくり話せるからって、時間を惜しんで、その時間帯に頼んだらしい。」

「・・・。」

「司、弱々しくなってたぜ。
元気づけてやれよ。」

「・・・写真で見る限り、元気そうだったけど。」

「お前、写真っていつのだよ!浦島太郎か?NYでは刻々と情勢も変われば、仕事もきつくなってるんだぜ。」

「牧野だって、心配だろ?」

美作さんからもそう言われ、めいっぱい頭の中を回転させた。

「わかった。」

「なっ、今晩でも早速電話を・・。」

「行って来るよ。」

「うおっ??」

「会ってくる。
夏休みにバイト増やしたのはそのつもりだったからだもん、大丈夫、行って来るよ。」

その2日後、NY行きのJALに乗った。
学校も始まってるし、十分なお金が貯まっていたわけでもないから、格安3日後リターンチケットだけしっかり持って。

9月のその日、マンハッタンはまだ温かく、半袖の人が目立っていた。
ガラガラとキャリーを引きながら、道明寺グループ本社ビルを探し出し、受付嬢が日本人っぽいのをいい事に、思い切って来社理由を日本語で告げる。


「道明寺司さんと会いたいのですが。
あっ、私、牧野と申します。」

日本から来た若い女の子に面食らった女性は、微笑を取り戻しながら、口を開いた。

「失礼ですが、アポイントメントをお持ちですか?」

「ふっ、良かった、日本語で。」

「はい、日本語大丈夫です。」

ニコリと微笑んでくれる。

「あのう~アポイント??ないと会えませんか?
私、ビックリさせようと思って連絡してないんです。
本当に知り合いなんですけど。」

「けれど、アポイントメントがございませんとお通しできかねます。
ご希望されますか?」

「あの~直接・・・秘書の方に、そうだっ!西田さんに連絡をとっていただくことはできませんか?」

眉間に皺を寄せながらも、お仕事を完璧にこなそうとする受付嬢。

「少々、お待ちください。」

「はい。」

ややあって、スマートな返事が戻ってきた。

「申し訳ありませんが、午後5時でないと西田は戻らないそうで、再度、お越しくださるか、もしくは、こちらから滞在場所へご連絡入れさせていただくことも可能かと思います。」

って言われても、滞在場所は決まってないし。

「じゃあ、また来ます。」

すごすごと退散し、また、摩天楼の街を歩くことになった。

5時まであと3時間・・・どうしよう。
そうだ!アメリカといえば、NBA(National Basketball Association)の華やかな選手がいるじゃない。
オフシーズンだし、観戦できるわけないだろうけど、折角来たんだから、Madison Square Gardenだけでも見に行ってみよう。

キョロキョロ入り口を探して、ようやくたどり着いた。
Official goodsを売ってる店に入ってみると、Knicks やRangersの有名選手(多分)背番号付きユニフォームやパンツ、それから、キーホルダーやペン、なぜか、お決まりのI Love NYものも置いてあった。
ユニフォームは目が飛び出るくらい高い。
コピーなのに何故?って思うけど、これも収益の一つなんだから仕方ないよね、なんたって、選手のあの年棒は桁が多すぎる。

仕方なく類にタオル、優紀にはオバマ・チョコを買った。
中に入れないかな~っと、恨めしそうにしていると、一人のオバサンが声をかけてきた。

早口の英語なので上手く聞き取れない。
でも、親切そうなおばさんだし、誘ってくれてる感じがして、「イエス・イエス!センキュ!」なんて答えると「Come with us」って言われて、入り口をくぐりぬけた。

アメリカの有名な試合会場だから、野球場みたいに広いイメージを想像していたのだけど、それほど馬鹿でかいわけでもない。
入り口はいたってコンサート会場みたいで、全くの屋内仕様。

大きな扉の前に、クリアな箱が置いてあって、オバサンはそこへお札を入れた。
ニコッと振り向かれ、募金はいかが?みたいな視線。

財布から一ドル札を抜いて、差し入れた。

そして、重いドアを開けると、すり鉢状の中央コートは明るいライトで浮かび上がり、にぎやかなバスケの試合真最中だった。
A Red Cross Drive for Contributions (赤十字募金運動)と書かれたバナーが見える。
先程の募金といい、どうやら、募金目的の試合?らしい。

早速、空いてるシートに腰掛けて観戦してると、本場のノリっていうのかな、迫力を感じた。
プロなのかアマなのかわからないけれども、大きな黒人選手が多くて、ジャンプ力もすごい。
ゴールに手が届きそうなくらい高く飛ぶ。
音楽もじゃんじゃん鳴って、うるさいくらい。
驚いたのは、相手チームが得点すると、あからさまなブーイングの音をたてること。
それはスポーツマンシップから程遠く嫌われる行為だと思うし、日本にはどちらかというと、アウェイのチームをたてる素敵な習慣があって、私はそっちの方が断然好き。
『日本の美徳』って言葉を教えてあげたいくらいだ。
「samurai」とか「geisha」とかだけじゃないんだって。
とにかく、ここは感情がストレート過ぎ、そういう文化の違いを感じた場面だった。

その試合が終わると、次の試合を待たず、オバサンにお礼を行って外へ出た。

Madison Squareのベンチに腰掛け、鳩を見ながら、ここに来た理由を改めて考えてみる。
勢いよくやってきたのはいいけれど、やっぱり、アポイントをとっておくべきだったかな。

道明寺は言葉も文化も違う異国で、めちゃくちゃ頑張ってるんだよね。
ふ~。
すごいよな~。
大衆文化だけでも違うのに、経済界・社交界で注目される立場なんて想像しただけで縮み上がりそう。
普通の大学生でしかない自分に、果たして元気づけてあげられるのかな?
何をしゃべったらいい?
日本だったら、もっとマシにやれてるよね?と祈るばかり。


目の前を、浮浪者だろうか、身なりの貧しいおじいさんがカートを押しながら、ゆっくり通り行く。
続いて、白人の子供がラティーノらしきナニーさん(子守)を急かしながら走り行く。
向こうで大道芸人がパフォーマンスを始めたようだ。

ふと、高校の頃、道明寺に冷たい言葉で追い返された日を思い出した。
だんだん意気消沈して、気持ちが重くなる。

『あの時は・・・道明寺。
あの時はさ、あたしは全然わかってなかったよね。
あんたの置かれてる状況がまったくといっていいほど。』

二人の間に横たわる隔たりの正体が道明寺に嘘をつかせ、刃(やいば)のように冷たい言葉を吐かせたのに。
私は、身も心も凍りそうだった。
「何か理由がある」そう信じようとしても、一度閉じてしまった心が再び自ら開くことなく、その意志は深く深くハドソン・リバーの底に沈みこんだまま浮いてくることはなかった。
動くと壊れる、かろうじて原型を留めるので精一杯、強い思いが正義と信じた若気、それは一度崩れると、思っていたより弱く繊細で、このNYという世界の中心地では相手にされないと叩きのめされた。

今は少しだけ大人に近づいたのかな。

でも、私は・・・むしろ、停滞を選んだのかもしれない。
学生生活に悔いを残さないように、今できることを選んだから。
NYには早く大人にならなきゃいけない気配が至るところにあるというのに、英徳では皆平和ボケ・・・もちろん私もそうだ。
誰も急いでる人なんていないんだから・・・道明寺だってわかるよね。

『まだ私、何の術も持ってないよ。』

急に怖くなって、ここからどこかへ逃げたくなった。
キャリーの取っ手をギュッと握り締め、グレイのコンクリを凝視してたら、突然、大道芸人のかたまりからワーッという歓声があがり、無意識に視線を向けた。

中心に居る人物は陽気に照らされ、楽しそうにジャグリングをしてる。
あんな風にケセラセラでも生きられるのに、好きなことして自由にすごす人もここにはいるのに。
それぞれの住人にとって色濃い世界が共存し合う街NY、住めば都なんだろうけど、それらが絶妙に交わることって無いんだろうな。
ちょっと寂しいね、道明寺が可哀想。

あいつに秋のこんな陽気に当たる時間はあるのかな。
そう想いながらも、視線はジャグリングから離れない。


鳩とジャグリング・・・平和な光景だ。
色素の薄いサラ髪に整った横顔。
お化粧してるけど、ちょっと寂しげで、綺麗な顔してる。
あの人・・・どことなく・・・懐かしい。

そうだ、類に似てるんだ。
今ごろ、「骨休みだって」寝てるかな・・・?

けど、ホント似てる、類っ???!もしかして?
温かい血液がボワっと心臓から頭へかけ上がり、身を乗り出した。

つづく

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