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10.
「おかえり、牧野。」
「うわっ・・・音たてないようにしたのに起こしちゃった、ごめんごめん。
この階段、ほんとに響くよね、カンカン、カンカンとぉ。
非常用だし文句言えないけどさ。」
昼過ぎの太陽に照らされて、類はまぶしい照明でも見るように目を細めていた。
わずか5日留守しただけなのに、もう懐かしくて、肩の力がスッと抜けてく。
「類、これお土産。
大したものじゃないけど。」
「サンキュ。
・・・で、司には会えた?」
「もちろん。
ちゃんと話してきたし、様子もわかった。」
「ちゃんと?ほんと?・・・俺、牧野は向こうに残ると思ってたけど。」
「あたしがNYに残る?
まっさかぁ・・・あいつはバカ忙しいし、あたしもすることあるし、そんなはずないじゃん。」
類は首をすぼめたかと思うと、お土産袋を手にし、ゴゾゴゾ中身を取り出した。
「ん?これ、NY Knicks? ・・・・・・ハ・デ。」
「あぁー、雑巾にでもしてって言いたいところだけど、どうせあんたは雑巾にする感覚もないだろうし、返品受け付けるよ。」
ムスッ?
またすねてる表情。
「使うよ。」
すねた口元から煙を吐くようにフーッと出た返事。
そして、オレンジx青の派手なタオルを瞼にのせ腕組みし、再度眠る気だ。
私は私で勝手に定位置に腰を下ろし、鉄柵にもたれかかる。
すると、ヒンヤリと気持ちよく、頭の後ろもくっつけて、広がる空を見上げた。
空の奥行きに見惚れるいなや、深呼吸、ふ~。
雲1つ無い空だった。
どこ行っちゃったのかな、端から端まで空は水色、講堂の葉っぱが茶色くなり、空気はサラッと乾燥してる。
留守の間に秋が深まったようで、聞こえてくる放送にはエコーがかかり、不思議と人を落ち着かせる。
類はオヤスミポーズのまま、誰にも邪魔されない昼寝タイムを決め込んだらしい。
寝不足?いつもより口数が少ないけど。
『午睡中』・・・吹出しがあたりにプカプカ浮かんでる、頭上あたり。
金持ちからの避難場所が、いつの間にかF4の類と共有する場所になった。
ホーント不思議な人、家でふわふわベッドが待ってるのにさ。
大ピンチには必ず助けてくれるくせ、手のかかる弟に見えたり、へんな縁があるっていうか。
もしかして、前世でも知り合いだったとか??
長い付き合いかもね、ここの空気みたいな感じなんだから。
だから一緒に居られるんだよ ー私達―。
季節が見えるこの指定席、このまったりと和める感じ、日本は平和だわ、天皇、総理大臣、その他大勢、アリガトサン!
感謝して眠ろうと目をつぶれば、慌しいマンハッタンの光景が目の前に浮かんできた。
おもむろに話してみたくなった。
「類?」
「・・・。」
「返事しなくていいけど、報告。」
「・・・。」
「NYでね、懐かしい人に会った。
トーマス。
ひっどい事されたけど、借りもある奴、演劇の勉強の傍ら、大道芸してた。
NYじゃあ、ガッツリしてなきゃ、置いてかれるんだろね。
未来を夢見て何万人もやってくる、一流って言われる人がウヨウヨいる憧れの場所で、未来に向かって走ってたよ。
東京だって大概だと思ってたけどさ、あそこは何なの?
人種のメルティング・ポットって言うんだっけ、道明寺も頑張ってた。」
「・・・。」
眠ってる類を見て、さらに話を続けた。
「ほ~んとよくやってるよ、あいつら~。
道明寺は東京に戻ってこれる訳じゃないし・・ハハ、戦ってもらわなきゃ困るんだけど。
金持ちで、単細胞で、どこよりピッタシじゃない・・・なんとかやってたもん。
ふ~・・・しょうがないよね。
可哀想だけど・・・。」
「・・・。」
「あいつ、笑えるくらい変わってなくて、ちょっと安心した。」
「・・・。」
「トーマスの彼女がね、タイからずっと付いて来たんだって。
彼女がいるから頑張れる!って嬉しそうに・・・強くて明るい感じの女の子。」
「・・・。」
「追いかけれるなんて、凄いよね。」
その時、類がピクリと動いた。
けれど、目はつぶったまま、またじっと動かず静かになる。
「で、恋人なら離れちゃいけないってトーマスに説教されて。
あたしに説教するなんて百年早いんだって。」
「・・・。」
「んでも・・言い返せなかったんだ。
もし・・・・・・もし離れてなかったら、・・・どうなってたのかな。
アメリカなんて異国だよ、日本が一番にきまってる、いいじゃんね。
あたしはあたしで。」
顔を上げると、類は目を開けていて、ジーッと私を見ていて驚いた。
「っ!?」
半端なくキューティクルが整ってるサラサラ髪の奥から、何かを尋ねるように、静かなまなざしは紅茶色の瞳がぼやけてるし。
ああ、久々、ヤダそんな風に・・・。
髪の毛のモデルかなんか?眩しいんだってば。
どんな手入れしてんだか、男のくせに、しかも、二十歳のくせにまったく、天使の輪なんか作ってんじゃないよ。
だから・・・、そんな哀しそうに見ないでよ。
「もぅ~類!ハハハ、なんだ起きてた?
今のは単なる愚痴だから、別に後悔してるわけじゃないし・・・ハハ、特に意味ないし。
まあ、アンチNYのグ・チ!・・・あーバカらし、あたしも寝よ。」
ヤバイ。
類には伝染しちゃうんだった、私のモヤモヤ感はいつも。
ボヤキの正体を見抜かれて、類の顔見て気付くことも一度や二度じゃない。
道明寺が去った最初の頃は随分心配かけて、それから2年、サクサク時間が経つように楽しくやってるつもりでも、まあなんだか色々あるから。
類に悪いと思いながら、そそくさと瞼を閉じることにした。
秋も深まり、関東社会人バスケ・リーグのシーズンがやってきた。
マネージャーの仕事も忙しくなって、また、バスケ・お稽古・勉強・バイト・再びバスケ・・・とクルクル予定を回す日々が続いてる。
類のポルシェに乗せてもらい、早々に体育館に行き、早い時間にやってくる熱心なメンバーとコートを暖めていた。
練習着に着替えた類はシュート練習していて、私は優紀と準備中。
「優紀、救急箱の補充、バン○○ンとテーピング・テープ買ってこようか?」
「友里ちゃんに頼んだよ!来る時に買ってきてくれるっていうからお願いした。」
上沼さんが神埼友里ちゃんを連れて体育館に入ってくるのが見えた。
「こんにちはー。
はい、これ、買ってきました!」
ニッコリしながら、薬局の袋をぶら下げる友里ちゃんは、私より1つ上の新マネージャーだ。
バスケ大好き、spanky’の大ファン、上沼さんの妹さんに頼み込んだんですと話してた。
「牧野さん、私、救急箱に入れておきますね!」
「うん、よろしく。
領収書、回しておいて、今日出せるから。」
「はいはーい!」
気が利いて、話しやすい女の子。
早くもクラブに溶け込んでる感じで、応援も二人よりも三人、華やかな桜になる。
「友里ちゃんが来てくれたから、私も安心だわ。」
近々、教育実習に入る優紀は、しばらくお休みのため、ちょうどよかったと安堵している。
確かに、ずっと助かる。
「つくしちゃ~ん、手あいてる?」
そこへ上沼さんから、いつものお声がかかった。
「いいですよ。」
上沼さんのリクエストは、柔軟体操の補助、背中側から押してくれってこと。
類の背中をギューギュー押してるのを見られて以来、「あんな感じで遠慮なくして!」って頼まれた。
はじめは遠慮がちなスタートだった。
類とは違う間柄だし、ずっとスポーツやってた背中だし、力の入れ加減がよくわからず、とにかく、大きな硬い背中に挑んだ。
その相棒と認知され、もうだいぶになる。
上沼さんが熱心に柔軟体操するのは、怪我で泣いたせいだと皆知ってる。
面倒くさがらず、誰より下準備する所、実は尊敬ポイントが上がるとこだ。
「・・・ッ・・・イッテ。」
「イチッ・ニッ・サーン、息吐いてー!!もっと、ながく!
「・・ウエッ・・・きつ。」
「まだまだいけますよ!ガンバ!」
「・・・ウンッ・ギョ・・・じゃ、乗って。」
「えっ?背中に?
乗るのは出来ませんって、あたし、こう見えて重いんですよ。」
「知ってるし・・・ニヤッ。」
「ヒド、知ってるって。」
「軽い軽い!大丈夫、来い。」
「で・できませんってば・・・。」
と言いつつ、おっかなびっくり乗っかって、どんどんいく。
とうとう背中の上で小ぢんまりと正座になった。
上っちさんと門脇さんが笑って見てるし、類がドリブルしたまま足を止めてるし、見世物じゃないっつうの。
「うおぉっ・・・ふう~、さっきの効いた。」
真っ赤な顔した上沼さん、大丈夫かな。
「やれば曲がるじゃないですか、正座で座れましたし。」
「マジ?」
「っ??」
ビックリしてる上沼さんと見つめ合う。
乗ってって上沼さんが・・・、正座がまずかった?
「フフっ・・また頼むよ。」
さわやかな笑顔でそう言われると・・・嬉しいし照れる。
「へっ?あっ、ハイ//////。」
そして、上沼さんは独り柔軟にもどっていった。
つづく
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