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31.
床には道明寺の吐き捨てた言葉の余韻が、なおも重く立ち籠めていた。
なんて重たい空気なんだろう。
一息吸うのも肩に力が入ってしまう。
ド派手に男二人が喧嘩して、口元を拭えば鮮血が付く、まるでヤクザ映画のようだった。
そう、映画の中の出来事だったらどんなに良いか。
ここにいる皆、「誰か止めて!」なんて言葉と裏腹の、むしろ、嵐が過ぎるのを呆然と待ってた。
途方にくれた顔して。
一様に納得できない様子で、「いつから?」って顔にそう書いてある。
皆の信頼も損ねてしまったんだね、私。
こんなにもひどく重たく秒針が動くのも。
無残な類をこうして見つめる訳も。
これは当然の報いだから。
・・・長い間、うっすらと予感し恐れ続けてたのに、結局、最悪の状態。
側にいる類の存在が大きくなって、遠くの道明寺が見えなくなって、少しづつ変わった立ち位置に目を背けてた。
「類は友達だから。」と閉じ込めて、ただ逃げていただけなのに。
道明寺には昔っから言われてた、フラフラよそ見して信用ならないやつだって。
その通りの人間だったんだよ、私。
類が大事。
それはハッキリしていて揺るがないから仕方ない。
運命的で初恋のヒトでもある。
もう、どうしたらいいかわからない。
結局、道明寺を傷つけ、皆も傷つけ、もうどこにも着地点はないように見える。
目の前には、やるせなくズボンからはみ出た白いシャツ。
「立てるか?類?」
その白いシャツに付いたばかりの赤い筋を、ただ見つめていたのは私だけだったのかな。
美作さんが類に声をかけると、続いて西門さんの声も聞こえてきた。
「まあ、っな、類。
司が頭に来たら何するかわかんねえのは昔からだ、変わってねえよな。
明日になりゃ、話せるようになってるって、心配すんな。」
美作さんが類を抱え込むように席に連れ戻し、グラスに茶色い液体を注いだ。
「類、まずは消毒するか。」
促されるままグラスを握る。
一同の視線を浴びる中、類はその液体を一気に飲み干した。
「・・・ッツ・・イテ。」
手の甲で口角を押さえつけつつ、つがれたお代わりを続けてかぶるように一気に飲み干す。
「・・・ッック。」
「おい。」
待たずして、ボトルをひっつかんで、ラッパ飲みする類。
「ちょ、ちょっとー、類くん!やめなよ!」
滋さんの驚く声が、あまりに大きく響いたのが印象的だった。
ただよう沈黙を破ったのは西門さんで、それも誰もが頷く言葉で。
「俺だって潰れてえよ。
司と牧野は・・・、俺らの・・・俺らにとっちゃあ、絶対だっただろ。
司が暴れるのも無理ねえ。
やっぱり・・・、お前ら・・・そうだったんだな。
はあ~、・・・ったく、あ~、何やってたんだか、俺は~。」
「ねえ、本当はどうなの?
類くんと付き合ってるの?ねえ、つくし。」
「ま・・さか。」
自分の声と思えないほど力ない声。
滋さんの目をまともに見返せない。
「つくし、もし、それが嘘なら許さないよ。
司にはつくししか居ないんだよ!!運命の人だって言ってたじゃん!」
「ごめん、皆。
皆の気持ちを裏切って、本当にごめんなさい。
でもね、あたし・・・、類のこと放っとけない。」
「それって、司より類くんが大事ってこと?
司より類くんが好きってことなの??」
「・・・。」
「はっ?マジかよ。」
「ねえ、つくし、ちゃんと答えて!」
類のサラ髪が揺れ、茶色の瞳が強い光で私を見上げていた。
痛々しい口元を隠すように肘で抑えながら。
手に取るようにわかる、類が言いたいこと。
『間違うな!』『笑った顔が好きだから。』って付け加える、いつものように。
でも、自然に心が、手が動いてしまう。
明白な意味を持って・・・側にあるその手に触れた。
類に伝えるつもりで、その心配そうな類を安心させたくて、大きくゆっくりと頷いた。
少しでも微笑んでみる。
いなや、美作さんの大げさな溜息と滋さんの立ち上がる音。
「私、司んとこに行ってくる。」
滋さんはそう言いながら、鉄砲玉のように飛び出していった。
「つくし、今日はもう失礼しよう。」
そう言い、私の腕をつかんで引っ張るのは優紀だった。
「桜子さん、後の事、お願いします。
類さんは、西門さん達がいるから大丈夫。
帰ろう、ねっ。」
類の視線にひどく後ろ髪を引かれる。
けれども、優紀はすごい力で私の腕を離さなかった。
つづく
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