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5.
春季大会3日目は初戦で強豪チームと当たり敗退。
負けた・・・呆然と突っ立っていた。
すると、「今日はこれで解散ですよね?」って誰かの事務的な一声が耳に入ってくる。
コーチを囲んだ反省会もそこそこ、「次、ガンバローぜ!」ってキャプテンの岩波さんが言ったらお開きになって、とたんに白い歯を見せ雑談を始めるメンバー達。
アッサリしてる・・・あのぅ、それだけですか?
甲子園球児でもないから当たり前なのかな。
全部が初めてのこと、社会人クラブってそんなもの?
けど、家に帰ってからの私は興奮冷めやらず。
熱に浮かれたようにバスケ本を夜中過ぎまで読みふけて、・・・熱い!これが青春ど真ん中?ってかなりのやる気モードに仕上がった。
部屋の天井を睨みつけ、巻けるものは腹巻でもはち巻きでも巻いて今度は勝つぞ!と元気が出た。
優紀にあきれられるね・・・子供みたいにはしゃいじゃって。
頭ん中はガラスワイパーで磨かれたようにクリアに冴え、もっとチームに貢献したいし、役立ちたい。
類も辞めないでくれるみたいだから、また一緒だし。
あー、次が楽しみ、早く練習日が来ないかな。
今日は夕方からspanky’s打ち上げ兼歓迎会に参加する予定。
だから、朝から大学のメディアルームにこもり、課題を仕上げるつもりで集中していた。
飲み会って、ちょっと緊張するけど楽しみだ。
道明寺家のお陰で、こうして大学に通えている、その事はずっと頭から離れない。
意地でも勉強は手を抜かないって心に決めてる、牧野つくし、ガンバロ!
「やっぱっ、牧野、見っけ。」
「ここに居たか。」
「西門さん、美作さん。」
F2が二人、衝立の上から麗しい顔を出し覗き込んできた。
「経済データ解析の解法?・・・へ~、頑張ってるじゃん。」
他に何やら言いた気な様子がプンプン匂ってきますけどもぉ。
「な・な・・何?忙しいんだけど。」
「あのさ、俺らに報告あるだろ?」
「牧野、水くせ~ぞ。」
「だから、何よ?」
「類とバスケしてるんだって?」
「!!っ!!!どっからそれを?!」
思わず出た大声に周囲の視線を感じ、一礼してから声を最小限までひそめて続けた。
「シッ!ねえちょっと、誰から聞いたのよ?」
「学園内の女に尋ねられたんだぜ。
美作さん達もバスケチームに入ってらっしゃるんですか?って。
最初、意味がわかんなかったよなあ。」
「おう、類からも何も聞いてなかったし。
また、どっから転んで、そんなことになった?」
「待って、学園内って、この大学の?・・・早すぎ・・信じらんない。」
情報が漏れたところは別として、チーム内にバレちゃうじゃない、類の素性。
あー、知られて欲しくない。
「そいつ、友達から聞いたブログで確認したとか言うし、類に電話したら、寝てやがって詳しく聞けなかったけど、助っ人だって?デマじゃないみたいだな。
何だよ、そのクラブって。」
「・・・心配ないとこ。優紀の彼のクラブで、優紀も一緒だし。」
ニコニコ笑顔をひっつけた。
「助っ人なら、俺らも・・・。」
「ちょちょっと、待った!そんな大げさなことは困るって。
ただでさえ、類が御曹司だって隠してるんだから。」
訳わかんないとばかり、顔を見合わせるF2。
この二人だって、運動神経は抜群、バスケだってあの通りだったし。
大げさで困る?
英徳のしがらみと無関係に青春してるんだから、悪いけど、二人に入られては『困る』が本音。
身勝手かもしれないけど、そっとしておいて欲しい。
「ほら、だから、もう帰って。」
さらに声をひそめて手で払うと、速やかに画面に視線を戻した。
そして、お昼12時の鐘が鳴る頃、もう一人がやって来た。
陽光を通したガラス玉の瞳、淹れ立てのレモンティーを思わせる澄んだ瞳にぶつかるまで、気配にも気付かなくて、椅子からひっくり返りそうになる。
「うわっ、ぎゃっ!!類!」
「えっ?」
「い・いつから居たの?」
「あれ?ビックリした?」
「そりゃあ、視線を上げた先に生首があったら、普通ビックリするでしょ。」
お愛想程度に微笑むと、側に回り込んできた類。
そして、画面を覗きこみ、小さくフーンって。
柑橘系の香りが鼻先を掠めた。
「進んだじゃん。仕上がりそう?」
「仕上がりそうじゃなくて、仕上げるの!」
鼻息荒くそう返事する。
「ククッ・・・ダイエットでもする気?お腹、すかない?」
「邪魔しに来たわけ?」
「ん。」
コクリ頷く類。
ここで頷くなんて、全く類らしい。
時にミステリアルな賢者に見えたり、木偶(でく)の坊に見えたり・・・誠に不思議な人だけど、始終、エスパーのように理解してくれる有り難い心の安定剤。
ずっと側に居て欲しい大切な存在だ。
それにしても、わざわざからかいに来たわけじゃないでしょ?
類だって授業も真面目に出てる様子、どうしてそんな余裕があるんだろ。
レポート提出期限は来週始め、こっちは泊り込みたい気分なのに、類には昨日も進捗状況を見られてる。
つまり、類は昨日もここへ来たわけで、何やら外国の伝記本を持ち出し、窓辺で長いこと読書を楽しんでいた。
あれは油を売ってたよね。
その横で格闘してる私って、早くPC買わなきゃってのが大問題だけど、学部選択ミスかもって落ち込むよ。
「何か手伝うことある?」
「んじゃ、お言葉に甘えて。
この本、探してきてくれる?」
メモ書きしていた紙を手渡すと、軽やかに背を向け、メモを見ながら歩いて行く後姿を目で追う。
「クスッ、へんなの・・・類ったら、ホントに何しにきたんだか。」
陽は傾き、打ち上げ場所のイタリアン家庭料理の店へ向かうことにした。
乾杯するなり、類のことが公然と話題にのぼり、興味津々の質問攻めが始まった。
「花沢くんって、有名人なんだって?
俺、ブログに新人紹介載せたら、すごい反応でビックリしたぜ。
あれだろ?
F4っていう金持ちグループの一人だって。」
「俺も、試合の後、あの男の子は花沢さんじゃないか?って女の子に聞かれた。」
キャプテンの岩波さんはspanky’sが盛り上がるように、ブログでチーム情報発信していて、新人紹介掲載が事の発端のようだ。
「花沢くんが花沢物産を継ぐんだよなあ?
あの大きな商社の・・・とすると、すごい人がチームメイトに居るわけだよな・・・それも、すごい。」
上っちさんが、親しみのある笑顔で、頭を掻きながら言う。
お酒が入って話が弾み出し、口々に質問が出てくる。
「ほら、エリート教育ってか、英才教育っていうの、受けてきたの?」
「その顔で地位もあるのって、神様は不公平だよなあ。」
「俺らのこと、ずっと忘れないでね。」
「モテてモテて、困るくらいでしょ? チクショー、うらやまし~。」
「牧野さんは遠距離恋愛中っていうし、恋人って訳じゃないんですよね?」
戦々恐々類の表情を窺うと、やはり、不快に思っているのが手に取るように伝わってくる。
どうにかしなければ。
「あのう!花沢類は・・・花沢さんは、偉そぶったりしないし、まだ学生だし、家の事は関係無しでお願いします!!」
皆の視線をいっせいに浴びてしまい、ちょっとまずかったかな。
「アハハハ・・・私が言うのもなんだけど、少し変わってるけど良い人だから、よろしくお願いしますね~~。」
ふう~。
類を見ると、ちょっとビックリしたみたいだけど、すぐ微笑みに変わる。
そして、口を開いた。
「不慣れですけど、どうぞよろしく。」
そして、後を繋いでくれたのは、さすが門脇さん。
「うちはざっくばらんが売りなんだし、肩書きは持ち込まないで行こう。」
「そうだな。」
「もちろん。」
「“類くん“でいいよな?」
そんな声がちらほら聞こえる中、再度、乾杯することになり場の空気が和やかに変わる。
類が耳打ちしてきた。
「牧野が心配することない、俺、何言われても平気。
言ったでしょ、小さい頃、散々・・・。」
「違うの。
類の為だけじゃない、類と一緒に目立たないで普通に過ごせたらって思ってたから。」
「ん?」
首を傾げて、見つめる瞳と目が合った。
「勝手だよね?」
「あのさ、周りの目がどう変わっても、俺らがそのままだったらそれでいいじゃない?」
「・・・。」
F4の一人、花沢類がここに座ってるのが不思議なことなんだ。
でも、当の本人は別に気にかけないと言う。
ごめんね、巻き込んで、花沢類。
それから、目の前に座る上沼さんと横に座る上っちさんと学校やバイトの話をした。
「・・・あと、お茶のお稽古も。
そっちは、お菓子が楽しみで。」
「花嫁修業で?つくしちゃんって、英徳でしょ?お嬢様だもんなぁ。」
上っちさんに聞かれ、急いで首を振る。
「違うんです!ぜっんぜん。
貧乏暮らしで、バイトもしてますし。」
「それで、いつ彼氏と会ってるの?」
上沼さんがズバリ聞く。
真正面に見て、言葉少なに大事な事を聞く人だ。
「え?!・・・えっと、半年会ってませんけど、それも遠恋の醍醐味ですよ。」
うわわっ、いきなり聞かれた。
でも、道明寺のことはバレてないみたい。
「ふ~ん。」
「あのね、この上沼さんは遠恋で潰れた経験ある人だからね、遠恋反対派なの。」
「お前喋りすぎ。」
「いや~、俺だって大反対ですよ!
彼女とは毎週、いや、毎日でもいいな。
心配だし、顔見たいし、会いたい時に会いたいですやん・・・別れられないんなら、一日でも早く結婚か同棲する。
こ~んな可愛い彼女を放ったらがしにする奴、ずい分だと思うなあ。」
「私は仕方ないって割り切ってますから。」
上っちさんと上沼さんが揃ってこちらを見る視線を感じた。
「うわっ、健気~。」
「ホラ、そういう可愛い事言うから、近場の男が掻っ攫って行くんだよな。
ねえ、これからつくしちゃんって呼んでいい?」
ニンマリ笑う上沼さんとからかってるような上っちさん。
そこで、上沼さんが類に向かって話を振った。
「類くんとは不思議な関係なんだね。
最初、二人がいい仲かと思ったけど違うんだ。」
「?」
キョトンとする類。
グラスが空なことに気付いた上沼さん、慣れたように尋ねてくれる。
「つくしちゃん、ビール? ジュース?」
「未成年なんで、ジュースでお願いします。」
「類くんもジュース?」
「いえ、俺は二十歳ですから。」
少しムスッとした風に聞こえたけど。
「ごめんごめん、じゃあ、ビールね。」
類は注がれるビールの泡をじっと見つめて黙りこくってる。
そういえば、ビールと類って、なんだか新鮮。
ビールを飲む類って見たことなくて、ココアの方がしっくりくるんだけど、そんなこと言ったら拗ねちゃうかな?
それおいしい?類?どうなの?
つづく
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