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4.
春季大会2日目。
ここで残れば、ベスト8に入れて来週末の出場権を得られる。
ひばりが鳴きそうなくらい爽やかな空、天気は関係なくても、出足よければ・・・なんて。
白いスポセンには、様々なウエアが発表会のように集い、その多様さに思わずキョロキョロ、コミック系・癒し系・クール系・・・色々あって、どんなチームなのか想像を駆り立てられる。
それだけたくさんのチームがあるって事にも驚いた。
我がチームSpanky’sはブラジル国旗みたいな緑x黄で、アマゾン系?
真夏みたいに明るいから、応援の垂れ幕は見つけやすく、それがまた、2階席の目立つ場所にデカデカと垂らされてる。
あれは身内が?
いや、今まで気づかなかっただけで、チーム・Tシャツとチーム・マフラータオルを身につけた女子グループがちらほら、応援に来たファンみたい。
居るんだね、ファンも・・・ビックリだ。
アイドル並みに名前が書かれた金モール付きボードには、上沼さんの名前が目についた。
ファースト・ゲーム出場なので、選手達は既に軽い練習を始めており、コーチは仁王立ちで選手を睨んでいるし、2階席からも熱い視線がコートに注がれている。
ドリブルの音・キュッキュッと鳴る靴の音・男女の掛け声が響いて館内を飛び交い、どこもかしこも、バスケット関係者・・・そりゃ、当たり前か。
コーチが戦略を指示し終わると、キャプテンの岩波さんがフォーメーションの確認をして、刻々と試合前の緊張感が会場に張り詰める、にわかに熱の種火がともったようだ。
ピーーッ!!
試合が始まり、岩波さん、門脇さん、泉さん、橋口さん、そして類も、チームの勝利のため走り出す。
時計の針が動きだした。
類は大丈夫かな・・・今朝はポルシェで迎えに来てくれて、いつも通り、微笑みながら「オハヨウ。」って。
運転もいつものように楽しそうだったし、鼻歌も出てた。
気負わず、緊張感ゼロはいいけど、急遽参戦、ぶっつけ本番だから心配。
メンバーの名前、少しは覚えた?
するとコートでは、その類からパスを受け、橋口さんがゴール下でジャンプ・シュート、本日の初ゴールがきまる。
「るい~、ナイッシュッーー!」
わーい!よしよし好調!とりあえず、アイコンタクト、取れてるじゃない。
競り合ったり、速攻かけたり、動きに勢いづいて、バッシュの鳴きが激しくなってきた。
取っては取り返され、試合は進む。
速攻で決まると、また、速攻で取り返される。
互角の状態のまま、第一ピリオドが終わった。
「どうぞ。」
メンバーにタオルとドリンクを手渡し、類の近くへ。
「類、いい感じだったよ。」
「サンキュ、でも、これからだから。」
「そだね。」
ガチで炎燃やしてるとは言いがたいけど、勝とうと思ってる様子。
少し安堵し、拳を作ってニコッとすると、タオルの向こうで薄茶の瞳が面白そうに笑った。
2分間のインターバルは短く、コーチは早口に、敵の特徴、マンツーマンのマーク変更、指示を飛ばす。
コーチの話に全員が真剣に耳を傾けていて、もちろん、私も一緒に並んでる気持ち。
その中に上沼さんもいて、頷いたり床を見つめたり、テーピングの時、悔しがってた横顔が浮かぶ。
歯がゆいだろうけど、きっと、家で留守番なんてできない人なんだろうな。
第二ピリオド。
類が、開始早々、頭の上からフォロースルーを2本ともきめた。
まさか、故意にファウルを誘った訳ではないだろうけど、ここでの得点は流れをつくるのにタイミングがよくて、応援席の声援もドッと沸いた。
それにしても、まさか入るとはね・・・運も味方につけたの?
新メンバーへのフォローがあるにしても、類は味方の動きをよくつかんでゾーン内でも小回りよく動いたり、スクリーンをかけてブロックしたり、得点に貢献している。
合流したばかりとは思えず、チームプレイもちゃんとやってるじゃないの。
良い例が、第三ピリオド後半。
ディフェンスをかわし、ゴールポスト近くに入りこんだ類、岩波さんから絶妙のパスをもらい、打つと見せかけ、ローサイドに動いた泉さんへ絶妙のフックパス、それをキャッチした泉さんのシュートは芸術的に決まった。
相手を騙すフェイクって、言葉は悪いけど、嘘つくこと。
ポーカーフェイスの延長線上だと思えば、日頃から練習していた(かもな?)わけで、どこで役立つのかわからないもんだ。
泉さんからハイタッチを受け、つられて微笑む類を見守りながら、そんなの、F3以外の人とするのは激レアだとあんぐり口を開けてしまう。
でも目立つと言ったら、我がチームのスコアラーの門脇さんの方が優ってた。
ワンハンドジャンプシュートはホントに素敵で、空中で放たれたオレンジのボールは重さを全く感じさせず、軽やかな音を立てネットに入っていく。
重いはずなのに、いとも簡単、易々(やすやす)とやってるように見える。
背が高くスポーツマン風の門脇さんがコートに立つだけで、一段と格好よく見えるし、優紀がマネージャーを一生懸命する気持ち、わかるなあ・・・。
流れは好調のまま、第一試合をものにし、午後からの次の試合に挑むことになった。
選手達は一時解散で、優紀から食べに出ようと誘われる。
「つくし、門脇さん達と外にでるけど、一緒に行くでしょ?」
「二人で行ってきな。私は類もいるし、大丈夫だよ。」
「ううん、だって、お仲間達が一緒なの。」
優紀が視線を向けた先には、門脇さんと上っちさん、泉さん、上沼さんの4人が立ち話していた。
「ね?だから、花沢さんも良かったら。」
「うん、じゃあ聞いてみる。」
類に聞くと、OKの返事。
そして、私たちが入ったのは、ファミリーレストランで、7人でもすぐに通してくれた。
最初に類に話しかけてきたのは、ベンチで見学していた上田さん。
皆から“上っち“って愛称で呼ばれ、誰にでもフレンドリーに話す人みたいだ。
「いやあ~、花沢君、甘いマスクであれって、格好良すぎじゃね?
俺のファンの子らがそっちに鞍替えしそうで、やべえ。」
「はあ?お前、ファンついてたか?」
泉さんが上っちさんをたしなめる。
「はあー?泉さん、知らないの? いるんだって、俺にも。
もうちっと出番があれば、わかるんだろうけども・・・ハハハ。」
「ところで、花沢君は高校時代、バスケやってたの?」
類の斜め前から聞いてきたのは上沼さんだった。
「いいえ、特には。」
その返事に一同、へえ?って顔。
「じゃあ、他の球技を?」
「いいえ、それも別に。」
皆の頭上にこれ以上???マークが浮かぶのに耐えられず、言葉足らずの類に加勢した。
「あのー、バ・バスケ同好会みたいなトコに入ってたのよね??ねっ、類?」
「ん?」
「それが、揃いも揃って全員背が高くて、運動神経バッチシ、球技センスも抜グンだったもんだから、グングン上手くなって、うちの高校じゃあ知らない人はいなかったくらい、いまだに有名な同好会よね??」
「同好・・会・・まっ、そんなとこかな。」
怪訝な表情は一瞬で消え、微かな笑みを浮かべ、納得した様子の類に一息つく。
まさか、小さい頃より、専属の体育教師がつき、体操から球技まで仕込まれ、自宅のコートでいつでも練習できる環境の坊ちゃんですなんて暴露できない。
いや、カミンングアウトは止めといた方がいいと私の心のアンテナが働く。
「じゃあ、バスケやってみれば?
大学の体育会は無理でも、うちのチームとかで。」
上沼さんがサラリと誘ってきた。
なんだか大人だ。
自分のポジションが奪われるとか考えないのだろうか。
「確かに、今大会だけの助っ人で見送るのは、もったいないと思ってたんだ、俺も。
練習時間は週2回だけ、始めから言っとけば、週末だけでもOKだし、無理ないんじゃないかな。
忙しい時はお互い様、文句無しの気のいいチームだし。
といっても、暇人が多いけどな。」
そう言うのは、この中で唯一、類の立場を知っているメンバーの門脇さんだ。
「他にも学生の人、いるんですか?」
思わず、声の主をガン見してしまう。
類っ!!まさか、貴方から聞くとは。
「いるよ、C大の笹本っていうやつ。
大学では部活やってないらしくて、一見、オタクだよな。」
「そうそう、笹本浩二くんはきてるね。
秋葉に居そうなタイプ。」
「でも、若い体力をもて余してるのか、バスケは好きだからとかで。
まあ、いろんな奴がいるから。」
それこそが、社会人クラブの特徴かもしれない。
個人の時間を尊重しつつ、趣味としてバスケを続けたい人の集まり。
色んな人が所属するのは自然な話で、オタクと類が同じクラブってことが現実に起こり得た。
隣の類を覗き込むと、飄々とした風情でメニューを眺めている。
この人は、一体何考えてる?
他人の事はどうでもいいって言ってたけど、先に尋ねたのは類、あんただし、なんか返事!
それに、類の考えも気になるし。
「類、ねえ、どうする?やってみる?」
「今、返事?」
「ってか、誘ってもらってるじゃない。」
「俺がどうでも、牧野は続けるだろ?」
「そ・そりゃ、一度引き受けたことだし、あたしは・・・。」
「まあ、固い話でもないし、試合が終わってから、ゆっくり気楽に考えてみたら?」
門脇さんが話を締めくくる感じで、メニューを手にし注文を促すと、類は軽く頷き、メニューに視線を戻した。
午後から先発メンバーに加わった上っちさん。
上っちさんへ声援が飛んできて、嬉しそうにVサインを返してる。
メンバーチェンジが増え、若い笹本さんも出たり入ったりして、速攻の戦力になった。
結果、午後の試合も勝ち進み、チームは来週の決戦出場権を獲得。
「勝った!勝った!やった~、優紀、勝ったね!!」
「うん!」
目を潤ませ今にも泣きそうな優紀と顔を見合わせて、思わず手を取り合った。
Spanky’s最高~、やってくれた、バンザイだよ。
ベスト8に残った。
もう十分頑張ってくれたけど、来週もやって欲しい、そんな欲張りで期待する気持ちも一緒に、バイトや勉強とは違う、とってもすがすがしい安堵と喜びで胸が高鳴る!
この場に居れたことがとても幸せだ。
「つくし、片付けよう!」
目をキラキラさせたままの優紀に声かけられ、勢い良く返事をする。
「うん!」
小走りで優紀と一緒に片付け、営業がてら、相手チームのマネージャーに挨拶しに行った。
練習試合相手になるかもしれないチームへ手作り名刺を渡すのも忘れない。
体育館の出口にはまた新たな色のウエアが行き交い、すれ違った次出場チームが強そうだったのを視界の隅に感じた。
「ベスト8、また、来週も来ることになったね。」
優紀独特の柔らかい笑顔。
昔からちっとも変わらない。
「うん、また来週も・・・。」
そう答えながら、また再び、優紀と同じ位置で同じものに挑戦していることや、お金やビジネスと無関係な、バスケが縁で結ばれた気のいい人たちと輪を作れることが、昔みたいに懐かしく嬉しくて、引き受けてホントに良かったと思った。
つづく
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