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HappyEverAfter

花沢類x牧野つくし

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Happy Ever After 3
happyeverafter03

3.

人に頼みごとをするには、相手と内容によって作戦を変えるべし。
というけど、類の場合は・・・駆け引きはすぐ見破られるだろうし、モノでつれると思えない、だったら、真っ直ぐ頼み込もうじゃないの、一応、お弁当のおまけ付きで。


「ご馳走様、うまかった。」

「よかった。
初めてにしては、フリッター、フンワリ揚がってたよね。
今度は夏野菜いっぱい集めて、フリッター丼とか作ってみよっかな~。」

「ん?それも、食べさせてくれんの?」

ホイ来た、ここがタイミング。

「別にいいけど・・・あのさ、」


大学非常階段の踊り場で待ち合わせて、新メニューだから感想お願いなんて言って、一緒に食べた。
視界の中には、鉄製の柵に凭れて座る類と、艶やかな深緑の蔦がからまる講堂の窓と壁。
重厚な落ち着きと西洋の匂いがしてきそうな中、連なる音符のように見事な蔦は、類の姿形とお似合いだ。

私は一冊の本を類の前に差し出して、手に取るように小さく上下する。
そして、何故その本なのか、訴えるように説明した。
本屋で買った『バスケットボール~上手になる手引き』、そりゃ、バスケに関する本って一目瞭然なんだけど。
ピンクの付箋が数枚ペラペラ曲がって、ルール解説の在りかをうるさいくらい伝えてた。
マネージャーとして、観客としても、バスケを楽しむ為に必要な情報だ。

「・・・そこで、類にお願いしたいことがあるの。」

「何?バスケの相手?」

「ちがうよ。
類もチームでプレイしてもらえないかな?負傷者が出て困ってるんだ。」

「・・・そもそも、牧野、なんでマネージャーなんか引き受けたの?
司は知ってるの?」

類から小さな溜息が聞こえた。

「まだ言ってない。
今度、電話で話す時に言うつもりだけど、週末デートしてるわけでもないし、お稽古だって続けるし、何も変わらないもん。」

「暴れると思うよ・・・ックス。」

「えっ?」

「だって、男がいっぱいでしょ?」

「男って・・・スポーツだよ!スポーツマン精神あふれる団体で、ミーハー同好会とは違うよ!
バスケがやりたいって人が忙しい中、集まって来る。
彼氏持ちの小娘なんか、眼中に入らないって。
そんなこと、これっぽっちも考えなかったから、ピックリしたぁ。
それより類、ここは一つ、あたしを助けると思って、助っ人になって!
類が居てくれると心強いし、お願い!!」

すると、類は空を見上げ、口笛ふくかのようにどうしようかな~なんて暢気な口調。
辛抱強く、両手を合わせお願いポーズで待ってると、返事が返ってきた。


「牧野だって、俺が団体競技が苦手なの知ってるでしょ?
それにさ、突き指はバイオリンの敵だし・・・助っ人は無理。」

返事に胸が痛んだ。
一つ返事で引き受けてもらえると思い込んでいた自分に呆れる。
バイオリン弾きなことも、忘れてた。
焦りながらも、なんとかもう一押ししなければと必死で脳味噌を働かせる。

「でもさ、絶対に突き指するとは限んないんだし、類は最近明るくなったって評判だから、皆とも上手くやれるってば。
だって、感じいい人ばっかしだもん。」

「もし、うちの社員とか関係者とかチームに居たら、俺だとやりにくくなるんじゃないの?」

「えっと、門脇さんはA食品会社で、金物屋さんもいて・・・あと、なんだっけ・・・。」

言われてみれば、花沢物産次期社長だと知ると、やりにくくなるチームメイトがいるかもしれない。
そこまで考えてなかった。

「それに、俺、身体なまってるから、いきなり走れないし。」

返事の理由が至極当然であるように思えてくる。

「牧野には悪いけど、助っ人は無理だろうな。」

マジでダメ?
ガッカリというより、何だろう・・・飲み込みにくい食べ物を前にして、どうしても食べなきゃならなくて、胃袋がおもいっきし拒否ってる感じ。


「牧野、今、カエルが胃袋ひっくり返す時の顔してる。」

「ど・ど~んな例えよ、人の気も知らないで。」

「じゃあさ、ジャンケンする?
もし、牧野が勝ったら考える。」

「ホント?ジャンケンする・する!」

じゃあ、いくよ!ジャンケン、ポイ!

されど、勝負虚しく、私はパーで類はチョキ、あっさり負けてしまった。
もう、完全に諦めろということね。

はぁ~あ。

「残念だったね、牧野、頑張ってたけど。」

「もう・・・類のケチ。」

思わず出た本音。
類の顔を見たくなくて、階段の外に視線を送る。

「クスッ、冗談だよ。
今まで俺が牧野の頼みごと、断わったことある?」

「え?・・・それって。」

「助っ人にはなれないだろうけど、それでもよければ。」

「ヤッタ!そうこなくっちゃ。
どんな練習でも付き合うし、お弁当もまかせて。
週末には試合だから、その前に顔合わせしておいた方がいいよね。
今日はどう?」

「えっ、いきなり?急過ぎ。」

「ごめん・・・水曜日は練習日だから。」

「ふー、わかったよ、行くよ。」

「ありがとう、類。」

「牧野の事、司に頼まれてるからね、俺。」

「どうぞよろしくお願いします。」

殊勝にペコリ頭を下げといた。

順調に勝ち進んでいるチームの士気はあがっており、平日にもかかわらず、参加者はほぼ全員らしい。
私と類は、新メンバーとして皆に紹介され、早速、練習に加わる。

キャプテンの岩波さんが類に付いてくれて、まずは全員でコート周囲をランニング、サイド・ステップ、バリエーションでのコート往復。
それから、各自ボールを持ってドリブル練習が始まった。

私は優紀の側で、知りたい疑問点やこのチームの事、そして、マネージャーの仕事を教えてもらう。

「やってるうちに覚えてくるから、大丈夫だよ。
それにしても、よく類さんを説得できたね。
聞いたときは、ビックリした・・・だって、あの類さんがチームに入ってくれるなんて意外じゃない?
なんて言って、誘ったの?」

「熱意で拝み倒しただけ。
だって、類がバスケ上手いの知ってるんだもん・・・高校の頃、3on3したことあってね、ビックリした。
あたしの退学をかけて、道明寺チームと戦ってくれたんだ。」

「え?道明寺さんのチームと?」

「そ、あん時は色々あってさ。」

「ふふっ・・・ほ~んと、色々あったね。
今なら、笑って流せるね、つくし。」

「ハア・・・わずか2年前のこととは思えないけど。」

コート内では、シュート練習を始めている。
一対一、ディフェンスをかわしてシュートが決まれば、落ちてきたボールを拾い、再び列の最後尾へ。
列で順番を待つメンバーは、10人そこらなので順番はすぐに回ってくる。
ノリのいい音楽が絶えず鳴っていて、それに合わせて身体を左右に揺らす人、ドリブルしながら待つ人もいる。
ディフェンスは、カットできれば交代、リズミカルにポジションが動いて、その軽いテンポが見ていて気持ち良い。

類も勿論、列に加わりシュートをバシバシきめていた。
うん!カッコイイ!
あの列の中では、類の身長は並くらい、もしかして美男子過ぎて浮いてしまう?って心配は取り越し苦労だったみたい。
だって、スポーツしてる選手はみんな格好よく見えるもんだ。

2時間ちょっとの練習時間はあっという間だった。


「おつかれさ~ん。」

「類、お疲れさま!」

「おう・・・すっげ、汗かいた。」

類にタオルを手渡し、様子を窺う。

「どうだった?寝てばっかいないで、そうやって身体動かすと気持ちいいでしょう?」

「まあ・・・そうかな。」

そこへ、コーチがやって来る。

「花沢くん、お疲れさん。
聞いてると思うけど、週末の試合はSF(スモール・フォワード)に入ってもらいたいから、そのつもりでいてくれる?」

「ハイ、わかりました。」

コーチは類の肩をポンとたたく。

「突然ですまない、ヨロシク頼むな。」

類は無言だったけども、ちゃんと顎を下げてたし、微かに両口角が上がってた?

「なーんか、新鮮。
類が初対面の人に、無視せずちゃんと対応してるし。」

「当たり前でしょ・・・いい加減、その俺のイメージどうにかして。」

その後、シャワーを浴びた選手達は、三々五々帰っていき、優紀は門脇さんと、そして、私は類と一緒に帰ることになった。

「ねえ、類、本当に電車で帰るの?荷物だって、あるよ。」

「俺達は仕事無いんだしさ、ゆっくり帰ろうよ。
牧野、お腹すいたでしょ?」

「うん、ペコペコ。」

「じゃあ、何食べたい?」

「う~ん、特にリクエストは無い。類こそ、何がいい?」

「俺も何でも。」

話してるうち、駅前の繁華街へ入ったようで、店のライトがやたらと誘ってくる。

「あそこは?」

「居酒屋だよ・・・それも、すごく大衆向けの居酒屋。」

「面白そ、あそこ行こう。」

看板にはこちらを睨みつける達磨のデカイ顔、そして、使用するネタについて、斜め書きで踊るように書かれている。

何気なく類を見上げると、私を見下ろし返事を待っている。

シャンプーしたての髪はサラサラ気持ち良さ気に頬にかかり、瞳は出来たて紅茶飴のようにとろり甘そうに澄みきっている。
さぞかし、サッパリ洗い流したんだろう。
まるで夏祭りに行く前、あわてて行水を済ませた少年のような、剥きたてのゆで卵を連想させる。
テッペンの髪が数本、夜風に煽られ浮き上がり、その様子をボーッと見つめていた。


「行こうよ!ね?!」

首を少し倒してニコリ微笑んでくれたのはいいけど、キャー類、それは反則でしょ。
私が類の微笑みに弱いってこと知ってるでしょうーーー!?

「う・うん///」

もう返事なんかまともに出来ないじゃん。

「じゃ、決まり。」

私の背に手を当て歩き出す類につられ、私の足も動き出す。
店のドアを開けてくれた時、類から漂って来た石鹸と少年の匂いは、とっても清潔で優しい匂い、思わず胸いっぱい吸い込んだ。

「どうぞ、入って。」

「うん//。」

こんな懐かしい匂いと出会えるなら、マネージャーって役得かも?!なんて、一人こっそりほくそ笑んだ。

つづく

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