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HappyEverAfter

花沢類x牧野つくし

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Happy Ever After 2
happyeverafter02

2.

優紀はT女子短大保育科へ進学し、入学したその春に彼と出会った。
彼は食品会社に勤める社会人、24歳。
すらりと背が高く、ミスチルの桜井和寿似のスポーツマンで、社会人バスケット・クラブのエースだ。

毎週水曜日の夜と土曜日の昼間、それに、今日みたいに試合があれば日曜日も、優紀はクラブ・マネージャーとして忙しく働いてる。
まあ、それも、少しでも彼氏と一緒に居たいからって理由なんだけども、なんだか楽しそうで嬉しそうに話すから、今日は私も付いてきた。

「つくし、ありがとうね。
今日の相手、昨年負けたチームらしくて、みんな気合入ってるんだ。
手伝ってくれると、すごい助かる。」

「いいってば。
こ~んな風に、バイトや勉強と関係ないことも、たまにいいよ。」


そんな事を話していると、赤いスバル・レガシーが近づいてきて、目の前で止まった。
運転席から出てきたのは、もちろん優紀の彼氏、門脇さん。
たくさん積み込めるワゴンタイプの車に乗って、私たちを迎えに来てくれたのだ。

「お待たせ。」

「こんにちは~。」


乗せてもらうのは2回目になる。
でも、門脇さんとは数回会ってるし、優紀から色々聞いてるらしくて、会話が楽、かしこまらなくて済む相手、これが社会人の包容力というもの?
門脇さんは男らしく、優紀からクラブの道具を受取ると、軽々と荷台へ詰め込んだ。

「どうぞ、乗って!」

私が後部座席に乗り込むと、車は試合会場へと出発した。

到着したのは総合体育センター、通称:白いスポセン。
大きくて立派で、豆腐みたいに四角くて白いから、そう呼ばれる。

到着すると、二人は大会開催委員の受付を探し、書類手続きしてから、また、二人仲良く戻ってきた。

「よし、行こう。」


チーム名は、spanky'sという。
近所の都民を中心に、ただし、入部資格に住所規定はなく、隣の県から参加してるメンバーもいて、20代から40代までのバスケ好きが集まった、いわゆる同好会的な社会人バスケクラブで、今日は春季大会初日だった。

開会式が終わると、早速、第一試合開始のホイッスルが体育館に木霊する。
Spanky’sは予備練習場へ移動し、試合までのアップを始めた。

優紀は出欠確認と健康チェック、コーチへの伝達と打ち合わせ、新しいユニフォームをメンバーに手渡したり、何かの領収証を受取ったり・・・、メンバーは優紀を見かけると気軽に声をかけてくる。
合間に私を紹介してくれて、マネージャーってホント気配りできなきゃ勤まらない。

「ゴメン、つくし、そこにドリンク用粉末があるから、作ってきてくれない?」

「りょうかーい!」

プラスチック製バスケットに放りこまれた人数分の空ボトルと箱入りの粉末を持って、給湯室へ小走りで行く。
帰りは、重たくなったバスケットを両手でヨッコラショと運び、早速やってきたメンバーへ笑顔で手渡す。

「ありがと、つくしちゃん。」

よく知らない大人の人から名前を呼ばれて、なんだかこそばい感じ。

そして、いよいよ私達のチームの試合が始まる。
優紀は試合直前の作業を終えると、スコアノートを持ってスタンバイし、私も肩に力が入ってきた。
中央にあるサークル内では、敵と味方の選手が一人づつ、屈伸したり首をグルリ回したりして、審判がボールを放つのを今か今かと待機して。

ピーッ!笛の音。

ボールが高く上げられ、パンッ!とはたかれるやいなや、選手たちは大きな水槽に放たれた小魚みたいに、いきなりササーッとあっち行ったりこっち行ったり、散らばる散らばる。

短い笛が鳴ると、動きが止まり・・・えっと、なんてファウルだっけ?そういえば、ルールは大丈夫かな、私?
要は、ファウルしないようにゴールを決めればいいんだよね。

味方のシュートが決まった。
ヤッター!喜んでると、敵がボールを持って、あっという間にシュートをきめられた。
スコアボードの得点は、ものすごい勢いで2の倍数であがっていき、取ったら取り返されて、同点のまま第一ピリオドが終了。

ふーっ、忙しい競技、こんなだったっけ。
これじゃ首が疲れる、首の筋肉痛になるかも、ボールを目で追うのが精一杯だ。
感心してる暇無く、選手達がベンチに戻ってくる。


「つくし、お願い!」

「あっ、うん!」

タオルとドリンクを配り、ボトルを回収し補充したり、出来る事はないか注視しながら、コーチの話を聞くメンバーをうかがう。
そのうち、休憩(インターバル)が終わり、笛の音が“ピーッ!”、さあ再出陣だ!

ボール・ゲームって、独特の緊張感があって、どこか胸の中をソワソワさせる久々の感覚。
『みんな、頑張って!』
選手達の背中にエールを送り、ゴールネットの女神が微笑むのを願う。


相手にフェイントをかけ目くらまし、パスが通り、ボールが面白いように繋がっていく。
ゴール近くに居た選手がジャンプ・キャッチ、そのまま空中で鮮やかにシュート!
ボールは吸い込まれるように、ゴールネットに入っていった。

門脇さんだ!うまい!

でも、感動もつかの間、ボールはコート内ではじっとなんかしてくれない。
それが、バスケだった・・・そういえば。
高らかに笛が鳴って、今度はフリースロー、それくらいはわかるけど。
相手チームがボールを持ってるということは、味方チームがファウルをしたということだよね・・・授業で習った記憶がメキメキ蘇ってくる。
どーか、入りませんように、自然に手を合わせて祈ってた。

第一試合は無事に勝ち進み、第二試合が始まった。
いよいよ、雪辱を晴らしたいチームとの対戦で、円陣を組む輪がメラメラ燃えあがる。

ハーフタイムを終えた時点で、spanky’sは5点の差で負けていて、もうじっと座ってなんかいられず、声を張り上げていた。

「ファイト!ファイトー!!かどわきさ~ん!!」

2の倍数が、何故に奇数になったのかわからない疑問を残しつつ、後で優紀に聞いてみようと思う。


どの選手も相当な汗の量、顔も肩もピカピカ光って、リストバンドでは拭いきれない。
走りっぱなしの選手達に交替要員は十分おらず、さすがに疲労の色が浮かんできた。
速い動きが減った気がするし、キャッチミスも出てきて、集中力が落ちてる様子、そりゃあ、普段は働いてる人ばっかしなんだから、それも仕方ないか。

ピピーッ!ホイッスル。

一人、選手が座り込み、脚に手を当てながら痛みに耐えていた。

「つくし、アイシングの用意!」

「うん!」

運ばれてきた選手はうちの選手、それも何度もシュートを決めてた人だった。
コーチがそっとシューズを脱がして、状態を確認し、あきらめ顔で選手交代を告げにいく。


「冷やします!!この辺りでいいですか?言ってくださいね。」

私は用意したアイシングをアキレス腱の右と左の二箇所に当て、動かさないように押さえ込んだ。

「・・・ッ・・・クソ。」

悔しそうに言う彼の顎から、汗がポトポト落ちて、タオルを渡したものの、なんて慰めていいのかわからず、見守っていた。
すると、コーチがやって来て覗き込む。

「上沼、どうだ?無理そうか?」

「・・・いえ、大丈夫っす。ラストは、いけます。」

「ムリするなよ。」

「はい。」

「じゃあ、つくしちゃん、もう少し冷やしてやったら、テーピングして。」

思わず頷いちゃったけど、私にテーピングをしろと?
薬箱からテープを取り出し、覚悟して始まりの場所にテープを貼り付ける。

「おっと、逆!」

「え?あっ、スイマセン。」

頭ではグルグル上手く巻いてるイメージなのに、包帯みたいにスルスル滑らないし、だいたい決まった向きってあんの?
ましてや、知らない男の人の足で、触れるのも気が引けるところだし。
間違ってはベロッとはがし微妙に位置をずらしながら、力の加減も確認しながら、悪戦苦闘の挙句なんとか仕上げた。


「ふーっ、出来ましたぁ!」

「クスッ、つくしちゃん、初めて巻いた?さっきの独り言?」

「はっ?また、喋ってましたか、ごめんなさいっ//癖なんです。
テーピング、そんなので大丈夫ですか?」

「うん、多分。サンキュ。」

短い前髪を逆立てた上沼さんって人は、両手をついて立ち上がると、ベンチにあったボトルをつかみ、ゴクゴク聞こえるかのように喉仏を豪快に動かす。
視線の先は、既にコート内。
バスケが大好きって感じの横顔に好感がもてた。

その後、奇跡的にspanky’sは得点をあげ続け、二勝目をもぎ取った。
上沼さんが離れた所からシュートを続けざまに決め、ディフェンスが崩れたところに、門脇さんが切り込み、ボールをヒョイとネットに置く感じでシュートをきめる。

いいコンビネーションの二人。
それもそのはず、帰りの車中で判明したことだけど、上沼さんは門脇さんの大学時代のバスケ部同期。
長い付き合いなのだそうだ。


「にしても、あいつ、来週の試合、欠場だろうな。」

「・・だとすると、フォワードは誰が?」

優紀が心配そうに尋ねる。

「う~む。
上っちをPF(パワーフォワード)にして、泉さんが前に出るっていうのが順当なんだろうけど、正直、俺もわからん。
コーチとキャプテンに任せてるし。」

「今日の試合、勝てただけでも凄いよ。
ね?つくし、どうだった?」

「私は動いてもいないのに、つられて汗出まくり・・・ハハッ・・・運動したって感じ。
勝って、気分爽快だよ。
機会があったら、いつでも呼んでね。
ルールの勉強しておこうかな。」

優紀と門脇さんは顔を見合わせ、一呼吸の後、合わせたように二人の声が重なる。

「つくし、」
「つくしちゃん、」

「ふん?」

「あのさ、つくしさえ良かったら、これからも手伝ってもらえない?
私、今年は教育実習があるでしょ。
来れなくなる日が多くなると思うから、どうしようか困ってたの。
つくしが手伝ってくれたら、嬉しい。
前より時間に余裕が出てきたみたいだし、道明寺さんが居ない間のひまつぶしになるかもしれないよ。
考えてみてくれない?」

ひまつぶし・・・って、それほど暇じゃないのを知ってるくせ誘うのは、最近、凹みがちな私への気遣いなんだと思う。

「そうそう、さっきの打ち上げでもすっかり溶け込んでたし、つくしちゃんならメンバー全員ウェルカムだからさ。
今日の試合で、捻挫した奴いただろ?
あいつなんて、つくしちゃんの愛情テーピングが効いた!って喜んでたし。」

「ええっ?私の愛情・・・//?」

「お陰で、チームが勝った・・・つくしちゃんに感謝。
あいつ、俺の大学からの連れで、上沼っていうんだ。
女の子のこと口に出すやつじゃないんだけど、嬉しそうに話してたわ。」

「そんなつもりは・・・。」

「そうよ、つくしには立派な彼氏がいるんだから、そこはちゃんと言っておいてね。

「わかってるって。
相手の名前は伏せて、“彼氏ありの子”って紹介してるから。」

「もう~何かあったら、道明寺さんに私が顔向けできなくなるんだからお願いよ。」

運転中の彼氏を、助手席から睨みつける優紀。

「あははっ・・・信じて、優紀ちゃん。」

私がバスケのマネージャーに?
確かに、今はパパの給料も安定してるし、学費は道明寺が払ってくれて、以前ほどバイトに明け暮れる必要もない。
すごく楽しかったし、また来たいと思うけど、マネージャーって、そんな余裕は・・・。

明るい体育館に響いたホイッスルの音、靴がキュキュッて鳴り響く音。
それから、ボールがバウンドしてゴールに当たる音、ドッと沸き上がる声援。
その場にいなけりゃ伝わらない一体感は、元気をくれて、気分が高揚した。
一生懸命プレーする選手達、汗かいて、ゴールがきまると一緒に飛び上がって喜んで、負けそうだと一緒にハラハラして・・・すっごく純粋に心が揺れた。
血が熱くなるっていうか、すぐ近くで応援するのって、力が出てくる。


「つくしって高校生らしい時間、たとえばクラブ活動とか全くしなかったでしょ。
青春、まだ終わってないよ。」

「青春・・・?」

何かが心にピンっと引っかかった。
強烈に心惹かれたのは、その響きがもつひときわ輝くイメージを感じたから。
ずっと羨ましく思ってた、でも、違う世界だと諦めていた。
まだ渇望感が残っていたことに、自分でもビックリする。
かけがえのない・一度きりの・・・そんな前置きが浮かぶ言葉。
やってみようかな。


「今日のお礼、小麦粉セットだけど、後ろに積んでるから持って帰ってね。」

会社で手に入ったものをくれると言う。

「うちのメンバーには、金物屋とか化粧品会社の奴もいるし、たまに物品サービスできるかもしれないから。
どう?やってみない?バイト料にはかなわないけど。」

うちの経済事情を知っていて、配慮してくれてるんだ。

「そんな・・・お礼なんて、大丈夫ですから。」

「じゃ、OKってこと?」

「えっ、まあ・・・はい・・、よろしくお願いします。」

>

そんなわけで、予想外な展開になり、私はspanky'sのクラブ・マネージャーをすることになった。


前に座る二人は、次回の試合で、上沼さんの代わりに誰が出るかの話で盛り上がってる。

その時、私の頭に浮かんでいたのは、頼りになる(かもしれない)助っ人のこと。
バスケと助っ人・・・その2ワードから思い浮かぶのは花沢類しか居ないでしょう。
昔の思い出が鮮やかに蘇る。
あのミニゲームは、退学をかけた真剣なもので、私にとっては、ゲームなんてカタカナ文字は似合わない大事件の大事件だった。

いつも寝てて、運動なんてしてないくせに、何故に上手い?と超不思議だったけど、私を誠実に助けてくれた恩人に変わりない。
「俺が時間をとめてやる。」なんて言って、格好良かったな。

忘れもしない3on3。
和也君と類と私、ド緊張なのは私一人だけで、楽しかったなんて感想をもらす男達には、後で拍子抜けした。
もしかして、上沼さんの代わりに出場してくれるかも・・・花沢類なら。

『誘ってみよう。』

引き受けると同時に、あてにする私がいた。

つづく

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