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26.
バトンタッチのように、上沼さんがインフルエンザに罹った。
うつした!!
上沼さんへメールしたら返信がきて、まずはその内容に一安心。
ピークを越して食欲が出てきたから、もう大丈夫というものだった。
ならば、せめて精のつくものを作ろうと、聞き出した上沼さんのマンションに食材とともに押しかけた。
ピンポーン♪
戸惑う上沼さんを尻目に、台所へ上がり込んで、買ってきた食材で作って食べさせると、食欲が回復したのは本当で、何でも食べてくれた。
そして、いつの間にやら、話は友里ちゃんと類の話に。
上沼さんは友里ちゃんの紹介者でもあるし、思い切って類との関係を打ち明けると、何度も「マジで?マジ???」って、ただただ驚かれる。
お兄ちゃんみたいな上沼さんは何でも愚痴れよって言ってくれて、かなり聞き上手。
一つ話すと止まらなくて、その後はちょっぴり肩の力が抜けて、そのうち、当て所(あてど)なく吐き出して、相槌が聞こえるのが心地よかった。
類のことが心配で仕方ないって本音も話した。
道明寺にも他のF2にも話せない話を、上沼さんは愚痴袋みたいに大きな心で聞き流してくれて、不思議とぶつけても大丈夫な人だってわかってた気がする。
「二人の関係、どうして隠してたのか、今考えても、腹が立ちますけどね。」
「うん。」
「誰にも話すつもりないって・・・そんな捨てゼリフ、どんだけ気になると思ってんのか。」
「ふ~ん・・・何を、だろな。」
「友里ちゃんと話したくなさそうだし。」
「両親とか家族のこと・・じゃないの?」
そういえば、初詣の時、西門さんが言ってた。
『類はまだ許してないよな・・・。』って。
「類、お母さんと喧嘩別れしたのかも。」
「とにかく、長いこと会ってないんだろうな。」
「そこなんですよね。」
「機嫌みて、聞いてみたら?」
「最後にするから!って言って、頑張ってみたんですけどね。」
「じゃあ、友里ちゃんに聞く?」
「え~それはっ!!・・・、口固そうだし、ひょっとして、全ての原因かもしれないし。
類を脅迫してる、とか・・・。」
「まさか。」
「ですよね、、ははっ。」
「じゃあ、つくしちゃんの彼氏に聞いたら?小さい時から類君と一緒なら、家族のことも知ってるでしょ。」
道明寺に類のことを聞くのはためらわれる。
どうしてそんな質問をするのか?って聞かれるだろうし、なんだか後が面倒くさい。
あわてて首を振った。
「でも、他の知人に聞けるかも知れません。」
西門さん達を思い浮かべながら、ふと視線の先に、室内の桟からぶら下がった物干し用の蛸足が目についた。
「あっ!!上沼さん、それ脱いで!
今から洗濯します、シーツも洗い替えありますよね?」
「え~??急にどうしたの?
いいよ、そんなことしてもらわなくても・・・俺がやるから。」
「いいえ、元はといえば、私が悪いんですから。
ほら、すっきりしましょ。
はい、脱いで!すいませんけど、ベッドから降りて着替えてきてください。」
「本当に?洗うの??」
「はい!!洗濯くらい、ご遠慮なく。」
「脱ぐの?」
「ハイ!」
腕まくりして、にっこり笑顔で答えた。
その晩は、久しぶりに道明寺とテレビ電話で話した。
いつも唐突な道明寺だけど、そういう奴だったと強烈に思い出さされる破目に遭う。
「来月、日本に帰れるぞ!今度は時間が取れそうだ。」
「ウソっ!!帰って来る!?」
「言っただろ。」
「ホントにぃ~???」
夏、会いに行った時、春先の一時帰国を調整していると言っていたけど、一度も帰ってきたことない訳で、遠い話と思ってた。
「で、牧野、パーティーに同伴してもらうから頼むな。予定空けろよ!
俺にくっついてろ、何も心配いらねえ。」
「はあ~っ!!???」
「んだよ、素っ頓狂な声上げて。
取引先の社屋落成祝いだ、適当に話合わせて笑ってりゃ、事が済むって。
牧野にはちょうどのもんだ。
婚約者としてお披露目にいい頃だろうし、日頃の成果を発表してもいいんじゃねえか。
マナー講習やってんだろ?英語も習ってんだろ?」
そうそう、確かに受けさせていただいてます。
道明寺邸に赴いて、時々ね。
普通の家と桁ちがいの道明寺家の花嫁修業として、今もって続いておりますけどもね。
「俺がちゃ~んとエスコートしてやっから、お前は笑ってろ、な。」
「ひっ、ちょっと~。」
「それから、一日丸々、ずっと一緒に過ごそうぜ。
デートってのを。
牧野の行きたい所、見たい物、食いたい物、詰め込んで。」
「ふぇっ。」
「やっぱ遊園地か?映画か?海か、海は寒いよな。
チープなとこでいいんだとか、どうせキンキン言うだろ?」
「・・・んまあ、そりゃ。」
「日本の温泉もいいな・・・いや、温泉は不吉だ。
なあ、流行のデートスポットはどこだ?
連れてってやっから、リストアップしとけ。」
「へ・・・。」
「なんだ、その返事。おい、聞いてるのか?」
「う・うん、聞こえてるよ、突然すぎて・・・頭が回んないだけ。」
「あいかわらずだなあ、お前は。
とにかく、そういうことだから。」
どうにか頷いた。
「じゃ、行くわ、またな。」
道明寺の手がアップになって、すぐに画面から光が消えた。
しぱらく真っ黒の画面を眺め続け、何も出てこない画面に向かってつぶやく。
「ほ~・・・どうしよう。」
道明寺の一時帰国について、早くも美作さんからお祝いみたいなメールが入った。
私は戸惑いの方が勝っている中、手放しで喜んでくれる仲間の安堵の深さに気付かされる。
一緒に待っていてくれていたんだと。
不甲斐ない私を安心させ、楽しませ、守っていてくれてたんだなあと改めて思う。
西門さんも、美作さんも、類も、道明寺の古くからの友人なのだから。
それなのに、こんな私って何?
紛れもない落差に少しだけ罪悪感。
道明寺の性急さにビビッてる。
パーティーに同伴するって、いきなり過ぎないか。
二人きりで過ごすって、泊まりってことで、やっぱ今度こそって意味か?
戻ってきたら、まずはゆっくり二人の時間を取り戻して、それからちゃんと卒業して、ちょっとは外で働いて親孝行する。
道明寺の横にいる自信が出てきたら、ゆくゆくは自然に心も大人になっていくと思ってた。
まだ準備が出来てない。
そういう悶々とした気持ちをぶつけて聞いてもらった相手も上沼さんだった。
ちょうど良いところにこの人が居たといっては失礼なのだけど、不思議とそういう相手だった。
社会人だから、大人だから、遠距離恋愛の先輩だから、私と同じ年頃の妹さんが居るから・・・なぜ上沼さんなのだかハッキリわからない。
こういう風に自然に話せる人だからというほか無い。
とにかく、電話やメールで話す機会が増えた。
その日は練習の帰りで、上沼さんに体育館の入り口横で呼び止められた。
「つくしちゃん!」
「はい。」
すこし物陰になった辺りに誘導されて、上沼さんは口を開いた。
声のトーンを下げて。
「おう、英会話集中講座、頑張ってやってんだろ?」
「はあ、まあね、しょうがないですもん。」
「あのさ、類くんの家族のことは友達に聞けた?」
「まだなんです、ばったり会うこともなくて。」
「そう。
いや、実は俺さぁ、妹に聞いたんだけど。」
「何かわかったんですか?」
「うん。
友里ちゃんのお母さん、つまり類くんのお母さん、入院してるんだってよ。
病気って、聞いてる?」
思い切り頭を振る。
「あの、どんな病気か・・・知って?」
「わからない、それは聞いてないけど。
友里ちゃんは頻繁に病院に通っているそうだよ。」
そうだったんだ・・・。
きっと、そのことを友里ちゃんは伝えて、それで。
類のため息や寂しそうな表情が浮かんで、類のところへ駆け出したくなった。
「つくしちゃん、色々あんだよ、俺らが立ち入るべきじゃないことも。
もう、そっとしておけば?」
「・・・。」
「話したくなったら話すって言ってるんだし。」
「はい。」
ズシンと身体が重く感じられた。
たった一人のお母さんなのに、優しい類が心配しないはずないよね。
重い病気なのかな。
ふと、先日、お見舞いに来てくれた時の様子を思い出した。
病人の私を看病する進を目で追って、寂しそうに類が言った言葉も。
きっと、頭の中にお母さんのことがあったからなんだね。
「上沼さん、やっぱり、あたしは・・。」
「っ!」
ちょうど類が着替えを終え、大きなエナメルカバンを肩にかけて、こちらに歩いてくるのと出くわした。
類に気付いた上沼さんが明るい方へ一歩後ずさり、普通に声をかける。
「類くん、ロッカールーム、今、込んでる?」
「いえ、大丈夫です。」
「あっ、そ。
ってことで、つくしちゃん、またな。」
類にも手を一振りする上沼さんは大股でズンズン歩いて行く。
「あっ、上沼さん!後でメールしていいですか?」
「OK!いつでもして来い!」
上沼さんの返事が終わるやいなや、類は半身傾け尋ねてくれた。
「邪魔した?話、もういいの?」
「うん、もういい・・・・後でメールするから。 帰ろ。」
私の口から、緊張気味な声が出た。
つづく
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