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23.
「牧野、あの子と知り合い?」
「うん、そうだけど。」
美作さんが聞いてきた。
「バスケチームで一緒にマネージャーしてるの。」
「ちょっと聞くが、名前は?」
今度は西門さんが訝しげに聞いてきた。
「神崎友里ちゃん。
あんた達、女と見りゃハンティングする気?正月早々。」
顔を見合わせている二人。
「真剣に止めてよね、友里ちゃんは。」
「マネージャーっていつも練習に来るんだろ?」
「そりゃあ、用事がある日以外は行くよ。」
「・・・ってことは、類とも顔あわす?」
「そりゃね。」
「マジかよ、類のやつ。」
「あの子、確か、そうだよなあ?」
「・・・。」
軟派な話ではないらしい。
どうなってるのかわからないと顔見合わせる二人を見てると、平穏だった空気がピキンと割れて、そこからモクモク灰色の煙が舞い上がってくる感じがしてくる。
ナンパ好きの二人が会話に入って来なかったのをおかしいと気付いてもよかったのに。
西門さんと美作さん、友里ちゃんと類、どうやら密やかに隠された関係があるのだとピンときた。
滋さんが口を開く。
「類くんが何なの? あの子は有名人?
う~ん、滋ちゃんは会ったことないと思うけど、桜子、知ってる?」
「いいえ。」
桜子は男二人をキッと見つめ黙っていた。
「類と友里ちゃんに何があるの?」
詰め寄ってみる。
「何も聞いてねえの?」
かぶりを振った。
「大したことじゃないし、牧野は知らなくていいんじゃねえか。なあ、あきら。」
「ああ、関係ないだろ。」
「関係ない?大したことない?
あるとかないとか、あたしが決める。
ねえ、友里ちゃんと類に何があるの?教えなさいよ!」
それはここ最近感じていた類の違和感に関係することだと確信に似た予感がした。
「どうする?」
詰め寄られて困り顔の美作さんには気の毒だけど、もう少しだ。
すると、西門さんが口を開いた。
「あの子は、類の母ちゃんの娘だ。」
「っ!!???えっーーー???」
「再婚相手の連れ子だけど。」
想定外の答えが耳に入ってきて混乱した。
「何て?・・・兄弟?」
「いや、兄弟っつっても、血がつながってないし、一緒に住んだこともない。」
「・・・。」
「なあ、牧野から見て、類はあの子と仲良く話したりしてるのか?」
仲良くなんてしてなかった。
どっちかというと、喧嘩してる二人を何度も目撃して、勝手に心配してた。
不意に考え込む類が、何でも私に吐き出して楽になればいいのにって一人悶着した挙句、もしかしたら、二人は付き合い始め、痴話喧嘩かもって完結してたお間抜けだ。
「総二郎、類はまだ許してないだろ?」
「そうだな。」
「どういうこと?詳しく教えてよ。」
「・・・まっ、後は類に直接聞け。」
「なっ、それがいい。」
「あたし、類を探してくる。」
「つくしー、大丈夫?一人で。」
滋さんの心配をよそに、リンゴ飴の出店に向かって歩き出した。
ようやく着いたリンゴ飴の出店前にはやはり姿はなく、携帯で連絡しようと取り出すと、着信表示があった。
メールに気付かなかったのは私の方で、急いで確認すると、類はお守りを買ったあたりで待っているとのこと。
着物の裾を少し持ち上げ、小走りで向かう。
視線の先に絵馬に書かれたメッセージを眺める類が、そして、握られたリンゴ飴が3本、赤く信号みたいに並んで見えた。
「類!」
肩をポンとたたくと、類は振り向いて顔をほころばせる。
「飲んだ?甘酒。」
「なんで知ってるの?」
「今、総二郎のメール読んだとこ。」
「えっと、・・・飲んだ飲んだ。
いやっ、そうじゃなくって、類、聞きたいことがあるんだけど。」
「怖いよ、牧野。」
「神崎友里ちゃんのこと。」
「・・・。」
「あたしに何か隠してること無い?」
「・・・。」
「・・・。」
「なんて聞いた?」
類が話すまで一切口を開くまいと、口を一文字に構えた。
「ちょっと、移動しよう。」
類は私の手首をサッと取ると、人ごみから外れた祠の側まで連れてった。
「ここならいいか。
で、牧野は神崎友里ちゃんと俺の関係が知りたいんでしょ?」
答えの代わりに、口をムスッと閉じて下からにらむような形相していたかもしれない。
「クスッ・・・いいよ、話すから。」
すこし力を抜いて、よく聞こうと耳の神経をとがらせてみる。
「俺が10歳の時、母親が出て行って、再婚した相手が神埼フーズ社長、神崎恒三。
母親が学生時代からの知り合いで、小さい時、何度か会ったこともあった。
奥さんは一人娘が赤ちゃんの頃亡くなってて、その赤ちゃんってのが神崎友里。」
「・・・ってことは、兄弟?」
「他人だよ。」
「・・・他人ってそんな。」
「シンプルなよくある話でしょ。」
「類は、突然、友里ちゃんが現れて、ビックリしたんでしょ?
マネージャーになって嫌だったんじゃないの?
戸惑って当然だし、やりにくかったでしょ。
よく知らないけど、喧嘩みたいなことになってたじゃない。
考えてみれば、友里ちゃんが来たころから、類が考え込むの見るようになったし、あたし、気付いてたもん。」
「・・・。」
「バカ!」
キョトンとする類。
「水くさいよ。
水くさいのも程がある、ひどすぎる。
知ってる奴だって言ってくれてもよかったじゃない。
そんな大きなこと、黙ってなくたっていいじゃん。
ってか、よく黙ってられるよね、ビックリするわ。」
「牧野が思うほど大きなことじゃないからだよ。」
「あたしは、何があっても類の味方なんだよ!知ってるでしょう?」
「サンキュッ、牧野。俺は大丈夫さ。」
「もう、本当にバカ。あたしもだけど・・・。」
すると、目の前に赤いリンゴ飴がヌーッと差し出された。
「欲しい?」
真っ赤っ赤な、むちゃくちゃ甘そうな水飴の塊。
トロ~リ美味しそうにたっぷりかかったまま固まっていて、見るだけで涎が沸いてくる。
現金にも、みるみる機嫌がなおってく自分に呆れた。
「どうぞ。」
「うん。」
類の冷えた手から一本、リンゴ飴を受け取った。
のんきに飴を受け取った私を類はどういう風に見つめていたのかな?
悩みの種がなくなったわけでもないし、もっともっと深い所で苦しんでいたんでしょうが!
自分さえ我慢して黙っていればって、本気で思い込んでた、ホントおバカだよ!ーー類は――。
つづく
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