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21.
体育座りのまま、膝の上に顎を乗せ類を観察していた。
ふいに、類がモバゲーから顔を上げ、目が合うなり微笑んで、その唇がゆっくり開く。
「ゴメン、お待たせ。
もういいよ、しゃべりかけても。」
時間にして3秒・・・頬の強張りが消えていく。
12月の清々しい光の中、そのつるりとした鼻先が気持ちよさげに陽を浴びていた。
「っと・・・。」
「ん?」
薄茶の瞳を投げかけられ、返事にまごつくけど、とにかく、友里ちゃんのことは答えてくれないだろうから、作戦たてて行こ。
「そういえばさ、イブの予定は何か入れた?」
「イブ?牧野が何かしてくれんの?」
「・・・って、何もないの?」
唇は半開き、気だるそうに右手を首にやり、ゆっくり首を前に倒した類。
頭を前後にギコギコ動かしストレッチ始めただけだ。
イエス?どっちよ。
「うっ、イって!
さっきので首、凝ったかも、俺も凝ったりするんだな。」
「バカだねー、親友をそっちのけで没頭するからじゃん。
ねえ、質問してるんだけどぉ、イブはひまにしてんのぉ?!」
すると、わざと拗ねた口ぶりがかえってくる。
「牧野はずっとバイトでしょ? 俺が暇なの知ってて。
親友そっち・の・け・で、いつものことだけど。」
ちょっとぉ、類?
「あ・あ・あたしは予定なかったから。。
また皆で集まる?・・・バイトはむしろ、正月前後よりイブの方が休みを言い易いし。
別に、2回クリパしてもいいわけだし、来れる人だけ来て、たのし・・・。」
「ククッ・・ジョーダン、俺がマジで拗ねるわけないでしょ、そんなことで。
お姫様のご機嫌そこねちゃ大変だし。
どんだけ暇人だと思ってんだよ、まったく、牧野はいっつも。」
「ケーキは?」
「・・っも食べる、もちろん。」
類は話し終えて一人立ち上がり、腕やお尻をパンパン叩いている。
そういえば、イブは休んで良かったんだ~と思い出してると立ち上がるのが遅れた。
千石屋の年末・年始の臨時バイトを引き受けたので、イブだけじゃない、年明けまで昔みたいに忙しくなる。
古巣が久しぶりで、ノリで安請け合いしてしまったのをちょっぴり後悔だ。
立ち上がった類を、ぼんやりと下から上へとなぞるように眺めた。
止まった視線の先で、彫像みたいに神がかった人物が空を見上げている。
胸を広げ、のどボトケを突き出し深く息を吸い込もうとしてる一瞬を、もう嫌になるほど・・・またもや見とれてしまい、時が止まった。
上質羊毛100%生地の濃紺のピーコート、表面の起毛がキラキラ反射し、足元から直線の縫い合わせさえ芸術的、縫製は匠とか呼ばれる人のかな。
手入れも行き届き、しわ一つ、糸くず一つ見えない。
やっぱり、金持ち。
マジ、高そう。
高価がイコール品格でなく、肝心要なのは中身で、サンサンと光を放ってる感じだもんね。
もって生まれた天命、宿命、運命で、相乗効果は神業ってことなのよね。
ため息がこぼれた。
それがどうして男っぽく見えるのかが不思議なのが、類の顎と鼻のライン。
一つ一つ注目すると、ごっつくもないのに。
ほの白い皮膚は吹き出物一つ見当たらず、整った唇の存在を朱く際立たせている。
茶色く柔らかな髪は、額にかかり、横は自然に流れて耳にかかる程度。
爽やかな柑橘の香りはナチュラル志向の類らしく。
後頭部の髪が少しはねてるのがまた秘訣で、感心するほど合ってるから黙るしかない。
その人が振り返って口を開いた。
「牧野、いつまでそこに座ってるの?寒いでしょ、行こ。」
「ん?」
「?」
「あっ、ああ~、そうだね、ハハッ。
行こ、行こ。」
「クスッ。」
腕をグイッと取られて引っ張り上げられ、身体がフワッと浮いた。
「・・ンキュっ。//」
カフェテリアまでの銀杏並木、出来るだけ落ち葉を踏まないように歩いていた。
すると同じように歩調を合わせてきた類。
黄色いかたまりを避けてはねるように歩く。
ピョン。
私も跳ねるようにピョン。
だんだんスピードと高さが増してきて、ピョン・・・ピョン・ピョン・・・。
ストライドの差は明らかで、置いて行かれないよう類の腕をグワッと掴み、バランス取らせてもらって、ピョン・ピョンピョンと。
類はなおも先行く勢いで、その腕から伝わる振動が微妙に自分とズレてやってくる、ちょっと強い。
負けずに腕を掴みなおし、走るように跳んだ。
「クククッ・・・マジになる?」
「なる。なる。こういうの、得意。
実はちっちゃい頃、よ~くやってたし!」
飛び跳ねながら、「イ」音の口のまま類を覗き込むと、とたんに、12月のひんやりした空気が口の中に入ってきた。
まばらに歩く学生はそんな私達を風景の一部のように見てるのだろう、さして、気にする様子もない。
「類はー?」
目じりが翳ったのが返事ね、そうだよね、小さい頃の遊びは・・・してるはずないっか。
ピョン・ピョン・・・・・ピョン・・・・・。
スットン。
銀杏並木が途切れ、最後の着地と同時にスピードを落とし、手を離し、息を落ち着かせる。
「あ~、こんな長いと息切れるよ。」
マフラーの巻きをはずして前を開放した。
うっすら汗が出ていて、もはや寒さはぶっ飛んでる。
「この季節じゃないと~、こういうの。」
「・・・のんびり歩くのもいいのに。」
「誰のせいよー。」
睨んでから、お互い顔を見合わせなんとなく笑いあった。
カフェテリアには美作さんと桜子がいて、合流するとクリスマス・イブの予定話で盛り上がり、続いて初詣の話しへ、そして、元旦にみんな誘って出かけようとなった。
「総二郎から返事きた、午後ならOKだってよ。」
「滋さんもOK。」
「でも、西門さんはお家のなんだかんだあるだろうし、大丈夫なのかな。」
「オヤジさんが健在なうちは、大概いいんじゃねえの?
そのうち、司みたいに忙しくなるんだから今のうち。」
「まあね・・・。」
「ねえ、先輩、着物で行きましょうよ。」
「っていっても、あたし、持ってないし。」
「桜子がぜ~んぶ揃えてお貸ししますから、ねっ!?」
「歩きづらいよ。
人ごみだしさ、高いもん着て歩かなくても。」
「大丈夫、大丈夫。
ドレスに宝石もいいけれど、和服着て楚々と歩いてこそ、大和撫子。
ナデシコ・ジャパンですよ!」
「は?」
「日本人が一番キレイに見えるデザインなんですから。
道明寺さんと結婚したら、着物での出席とかあると思いますよ。
覚悟してます?」
「わ・わかってるよ、言われなくたって。」
「じゃ、決まり。
桜子、着たい着物があるんです、良かった~。」
「な~んだ、あたしはそのダシじゃない。」
「いいじゃん、楽しみ、牧野の晴れ着。」
類がニッコリしてる。
「もう、・・・ったく、しょうがないなあ。」
つづく
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