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20.
「あ~、わかんない。」
「・・プッ、何、ブツブツ言ってんの。
全部、聞こえてますけど。」
「えええっーー!!やってました?も~、恥ずかし。」
「おもしろいけど。」
大きく息を吸い込んで、バタリと背もたれに背を預けた。
「類くんに内緒にされたら嫌だろうけど、怒るのはお門違いだよ。」
「お門違い?」
「つくしちゃんはカレシとのこと、逐一報告してんの?類くんに。
聞いて欲しいところだけ話す?だよな、友達なら。 約束ないから、罪悪感も湧かない。」
「・・・。」
そういわれても、私はカレシにあまり報告しない性質であり、もしかしたら、類の方に日常のことなら色々報告してるし。
「っ・・・その彼氏ってのには、いつでも話せる状態にないもんで。」
首をすぼめて見せた。
「おーう、そうそう、遠距離恋愛だったもんな。んで、どうなってんの?あれから。」
上沼さんには前にも相談にのってもらったことがあるし、こんな感じ・・・って話してみた。
「もしかしたら、春先に少し長めに日本帰国できるかもしれないって、仕事頑張ってる。
だから、しょうがないんだ、年末は。」
「じゃ、二十歳のお祝い、また優紀ちゃん達と集まるか。せっかくの大きな節目だし。」
「はい!じゃ、楽しみにしておきます。
今度はお酒飲みますからね、上沼さんには負けませんよ!」
ニコリと笑って見せた。
「強気な事言って。
鍛えられてるぞ、この肝臓。
マジでむちゃくちゃしたからな。
サワーの一気は挨拶で、安い焼酎でバンバンいくわけ。
ドンブリになみなみ注がれて、両隣の奴らといっせいに空にして。
延々と飲まされ、どいつかわからん奴の残り酒もドンブリにぶち込まれて、いろんな手から盛られて・・・、しまいに皿のトマトとかキャベツとか放り込まれだして。」
「ゲッ、それ、飲むの?」
「おう。
ハハハッ・・・気持ち悪いだろ。」
「う~、想像したくないです。」
「いいよ、想像しなくても。
俺も思い出したくないわ、ハハッ。」
そう言って、上沼さんは爽やかに笑った。
「あたし、類に思い切って聞いてみようかな。」
「付き合ってるのかって?」
「うん。
自分から言い出しづらいのかもしんないしね。
でも、ムカツク、こっちから聞くのも。」
上沼さんの反応を見ようと、上目づかいで見上げてみた。
「・・・まっ、つくしちゃんは待ってられなさそうだし、仕方ないな。」
「いくらでも待てます!辛抱強いって言われてるんですよ。
でも、応援してあげたいし、聞くくらいなら。
上沼さんは知らないですけど、私は恩返ししなきゃいけないんですよ。」
「俺のアドバイスなんか要らないね。」
面白そうにニヤニヤ笑っている上沼さんは、腕なんか力強そうで、短髪で精悍な横顔で。
その落ち着いた話しぶりのせいか、恋愛経験の差なのか、まるで私達の色恋沙汰は全てお見通しみたいな余裕を感じる。
すぐ隣にいるのにすごい差を感じた。
一人置いてきぼりをくった妹みたいに、上沼さんを見つめながら唇をかんだ。
「もう、上から目線なんて、どんだけオヤジなんですか。」
「えっ、ゴメンゴメン。
俺、6つしか上じゃないぞ。
つくしちゃんの彼氏になれる年だからな、言っとくけど。」
「はいはい。」
スポーツ店を出ると、ググーッとお腹の虫が鳴った。
流れで上沼さんに甘えることに。
焼き鳥をつまみながら、遠恋失敗経験ある上沼さんが講釈を述べる。
彼に言わせると、私はそんなの向いてないそうだ。
マメじゃないから。
学生なんだから動けるだろ?とか、彼氏に旅費を出してもらえ!だとか・・・無理なことばっかり言われて、負けずに対抗してみたけど、斜め上からずっとニヤニヤ笑われてた。
翌日は大学へ行った。
銀杏の葉はほぼ落ちて、真新しいのはやけに黄色がきつく見える。
踏まないようにそっと歩き、講堂を横目に古い建物をぬけると、目的の場所が視界に入った。
カンカンカン・・・上がっていくと、やっぱり居た。
「る~い!」
類は携帯で遊んでいた。
屈んで、耳のすぐ横で聞いてみる。
フワッと柑橘系のコロンの香りが鼻先をかすめた。
「何やってんの?お昼食べた?」
「うん?・・・まだ。」
携帯画面はモバゲーの農園のやつ、類は顔を上げもしない。
紺色のダッフルコートの横にくっついて座った瞬間、今朝してきた朝シャンの甘い香りがひろがった。
「きゃっ、カワイイ、モグラ?なんで、捕まえるの?」
「・・・。」
返事はなく、類は画面に見入ってる。
しばらく二人とも無言で、類の細長い指だけがせわしく動いていた。
「水やりだね。大根、それ?ジョウロもかわいい。
ねえ、それ、簡単?面白いの?」
「う~、牧野、うるさい。」
「いいじゃん。
だいたい、類がモバゲー始めたなんてさ、意外で意外で。」
目を大きく開けて正面に回ると、類もこちらに目を向け、視線が合う。
「西門さんも厄介なもん、類に押し付けたよね。
どうせ、モバG狙いなんじゃないの?美作さんもでしょ。」
「あきらも。」
「やっぱりね。」
次画面は作物の収穫みたいで、類はどっかから応援よんだみたい。
「こっちが花沢類だって知らない人?
何か不思議、類の周りにどんどん仲間が増えていってる感じだね。」
「・・・。」
気になってた事を切り出した。
「ねえ、友里ちゃんと昨日も話してたじゃない? 何かあった?」
「何?」
「友里ちゃん・・・就活で問題でも?
だって、真剣そうに話してたから。」
「とくに何も。」
「・・・何、話してたか聞いてもいい?」
類は顔を上げてきっぱり言った。
「牧野に関係ない話。」
ズキッ・・・。
こっちは遠慮して聞いたのに。
「・・・。」
応援してあげたい気持ちも失せそう。
むしゃくしゃして、体育座りで曲げてた両膝を類の方へドンと倒した。
すると、類はバランスを崩し、携帯持つ手を地面に置いた。
「・・・んもう、何だよ、牧野。
邪魔すんなら、あっち行って。」
ハアーって、ため息までくっつけて。
にらみ合う形になったけれど、類がすぐに折れて口を開く。
「牧野、ちょっとだけ静かに待っててくれない?キリがいいとこまで。」
またゲームの体勢に戻った類。
私は向かい側によっこらしょっと座り、携帯のメールチェックを始めた。
静かな沈黙が流れた。
しばらくすると、類が画面から目を離さないまま聞いてきた。
「昨日、上沼さんにちゃんと家まで送ってもらえた?」
「ああ、うん。」
「そ。」
「もちろん、家の前まで送ってくれたよ。」
「なら良かった。」
視線を合わせない類を、反対側から眺め見る。
類に彼女ができたら、こんな風に近くに居るの遠慮しないとダメかな。
理解してもらうのって大変だよね。
類は道明寺から頼まれたと言って、私達を応援してくれてるんだから、私だって返さないと。
チラリと目を上げた類の口元がカープを描いて微笑みに変わった。
「・・・仔犬買ったら、終わるから。」
「はい?仔犬?」
「うん、番犬に育てるから。」
いそいそとボタンを押す類が子どもみたいで可愛く見える。
類と会えないと寂しくなるな~って、艶のあるサラ髪を見ながら何気につぶやいた。
つづく
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