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HappyEverAfter

花沢類x牧野つくし

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Happy Ever After 1
happyeverafter01

1.

英徳大学。

そのブランド力は沖縄から北海道まで知れ渡り、大学から内部生とほぼ同人数を新たに募集するが、入試合格レベルはとても高く、英徳ゼミやら英徳アカデミーで猛勉強した高校生でさえ、多くが涙を飲むことで知られてる。

高校時代、巨大な塊りに思えた学び舎も、はっきり言って、大学が抱える付属の一部でしかなく、大学施設はひたすら広い、知らない場所がまだまだある。

キャンパスは最新設備が整った5つの校舎、ゆったり設けられた通路や憩いスペース、そして、シンボル的存在の講堂で成り立ち、蔦がからまる講堂は都指定文化財だ。
ヨーロッパの有名な教会を模して作られ、童話に出てきそうな雰囲気ある外観、柄にも無く、王子様がお姫様に求愛する場面を連想するのは、大半の女子学生と同じだと思う。
他にも大学施設はいくつか近郊に点在するけれど、これがある限り、英徳ここにありって風格が漂ってくる。

そんな大学キャンパスは、近くて遠い存在で、あそこは勉学に勤しむ大人の世界なんだろうなーってずっと思ってた。
そう、まさか、私がお世話になるとは思ってなかった頃のこと。

「ちょっと、ちょっと、つっきー、貴方達も大変よね。」

ヒールをカツカツ鳴らして近づいてきたのは、ますます香水の量を増やして、女くさくなった浅井。
その後ろには、いつもの顔ぶれ、ジャラジャラ飾りをつけた鮎原と山野。
全く、あんたら勉強するつもりあんの?

「厚木基地で見つけたんだけど、きっとツッキー、知らないと思ったから、持ってきて差し上げたわよ!」

「何をよ。」

「これよ、これ!
道明寺さんのお相手、ミス・コネチカットらしいわよ。」

どこか嬉しそうに目を輝かせながら、英字ばかりの新聞に掲載された記事を見開きで押し付けてくる。

「コネチカット州議員の娘だって~。
ツッキーが側に居ないからって、お遊びがすぎるわよね。」

ホント、ホント・・・と頷く後ろの二人のうち一人が口を開く。

「道明寺さんだって、お若いんですもの。
あの経済力と容姿なんだから、目をつぶって差し上げないと~。」

三人の視線が、面白そうにじっとり向かってくる。

「余計なお世話。
あんた達こそ、外人と遊んでばかりいないで勉強したら?
ハーフの子が生まれちゃって、ごまかせなくなっちゃうよ!」

案の定、浅井はふくれっ面になり、小言を残し去って行った。

記事に目をやると、薔薇のような美女とキリリと前方を見つめるタキシード姿の道明寺。
その手は美女の腰に回され、どうやらパーティーのエスコート中らしい。

『何よ、マスコミに微笑んでやればよかったのに。
どうせなら・・・。』


去年の11月、道明寺がアメリカへ渡った原因ともなった道明寺の父親が突然なくなった。
もとの病気とは直接関係ない、ストレスによる急性心筋梗塞だった。

命に別状ない状況下では、ビジネススクール優先のスケジュールで済んでいたのに、そうなっては話が変わり、一日の大半を会社で過ごす。

グループ各分野から送られてくる業績データを分析・把握し、第一線の教育係とディベートを繰り返す練習の日々。
極めて実践的で効果的に、MBAを取得するより早く、知識とビジネス・スキルを身につけられるんだろうけども。

不十分な準備のままいきなり戦場に送られ、鬼軍曹にしごかれる一兵は、あいにくのサラブレットで、否応なく特別プログラムにはめ込まれ、あらん限りの近道を使い、一人前の兵士、さらには上級職へと改造される。

特別な環境で、道明寺のために施される手厚い教育。
現場から集められたベテラン・スタップだって何十人いるんだか。
道明寺グループを継ぐ意志を固めた限り、そりゃ、いつかは出会っていた人たちばかりなんだろうけど、注目はプレッシャーにすり替わる。
影のようにつかみどころなく、変幻自在で怖い。

マスコミだって、放っておかない。

「道明寺グループのアピールだ!」

以前、道明寺が電話で言ってた。
今回のパーティーもそうなんだろうけど、「こんな時こそ、うちは健在だってアピールしなきゃね、頑張ってよ!」みたいに言って、恋人なら励ますところだと思うし、その気がないわけじゃない。

でもさ、誰に向かって、どんな風にアピールするのかわからないまま言葉にするなんて、正直苦手なの。
大企業にとっちゃ大事な仕事なんだよね?

安穏な日本、それも壁に守られた英徳の大学生である限り、道明寺の世界に現実感を感じろって方がムリでしょう。
道明寺だって、それを私に望んでるわけじゃない。
思いは、力なくぶら下がったまま後ろへ後ろへ流されていく。

だから、私は黙って見ていて、たまにかかってくる電話を待っている。

空には真っ白い雲が浮かび、太陽が顔を見せている。
桜はとうの昔に散り、大学は一斉に若草色に染まった。

高校あがりの新入生達が、わき目もふらず歩いてるのが懐かしくて、改めて二回生になったことを実感しながら、一年前を振り返る。
去年は私もああだったんだろな~。
え?いや、ちがった、あっという間に馴染んだな。
入学早々F3から声かけられ、結構な注目を浴びつつ、すぐにカフェに拉致られ、主要教室まではドアまで付いて来られ、いつの間にか、そのへんのベンチで大声で話しこんだりするようになった。

でも、道明寺の手前、サークルやクラブに入らず、勉強とお稽古漬けだし、やってる事はそう大して高校時代と変わんないんだけど。



あき時間を確認すると、テキストを胸に抱え、銀杏の木を通りすぎ、中道を抜ける。
古い建物のドアを開け、そのまま突っ切って、向こう側へ出る。
そして、右側に設置された非常階段をカンカンカンと上がって、誰も使わない中2階で手すりに背を向け腰を下ろした。

風が通るこの場所が好き。
高校の非常階段には、やっぱり行きにくくて、代わりに見つけたのがここ。

空を見上げて、溜息をついた。

『この空、NYと繋がってるんだよね・・・そっちも同じように見える?
あっちは夜だっけ、オフィスの窓から星なんて見ることあんのかな。
約束まで、あと2年・・・やっぱり、長いよ。』

カンカンカンカン・・・

軽く響く音。
階段を上がってくる音がしたと思ったら、ポケットに両手を突っ込んだまま顔を見せる馴染みの人。


「・・・っす。」

「うん、おっス。」

「いると思った。」

「天気いいもんね、今日は~。」

「それもあるかもしんないけど、なんとなくさ。」

ジロリと見上げると、ニコリと微笑む類の笑顔とかち合う。
こうして微笑む類を見ると安心するんだ。

だって、鈍感女と言われ続けた私の初恋の人だよ!
普通、初恋って遅くても小学生で終わってるもんじゃないの?
セメダイン級に固く閉じてた恋心をたたき割って、こじ開けた人だもん、効果絶大な何かを持ってる人なんだから、当然、特別だ。

でも、もう以前のようにドギマギすることはなくなった。
私の初恋は終わって、眠りにつく子狐のように平和な顔を見せる。

『この人の笑顔が見れたら、私は大丈夫だ。』っていうのは、一生解かれることないオマジナイなんだと思ってる。

「あれ?これ、牧野が買ってきたの?」

「さっき貰った。」

例のアメリカのスポーツ新聞を手に取る類に、先に言っておくのを忘れない。

「浅井達、ひつっこいのよ、まったく。
いまだにネチネチ言ってくるんだから、成長しろって。
誰が今さら、そんなゴシップ記事に惑わされるかってもんよ!」

「ふぅ~ん、司、外交も頑張ってるじゃん。」

「そ、色々とね。
でもさ、どうせなら、愛想笑いくらい出来なかったのかなぁ。
こ~んな難しい顔しちゃって、道明寺グループ余裕無しか!?って書かれても文句言えないね。」

風にゆれる広葉樹に聞こえるように文句を吐き出した。

「ックス、司、ホント、難しい顔してる。」

「でっしょ?!」

「・・・そうだ、牧野、2年進級おめでと。」

「いきなり何?
え?う・・うん、ありがと。
類だって、3年生になったじゃない。」

「うん、だから、牧野からも言ってよ。」

「は?そりゃ、進級おめ・・でと。」

「サンキュ。
やったね、俺達。
ふわ~ぁ、とうとう、俺も3年になっちまったなあ~。」

長い手足を伸ばして、あくびをしながら言う。

「ね、お祝いしよっか?」

「お祝い?」

「今日のランチ、奢るよ。」

「だから、そういうの・・・。」

「牧野も俺に奢るの、それで文句ないでしょ?」

「学食でいい?」

「俺はどこでも。」

「ならいいよ。」

「よし、それでdoneね。」

何を言うやら、でも嬉しそうに笑ってくれるから和んでしまう。

「じゃ、そろそろ授業行ってこよっかな。」

「何の?」

「社経Ⅰ」

「基礎か・・・先生誰?」

「溝口だよ。」

「んじゃ、一緒に俺も出る。」

「ええええーっ?
類はもう履修したでしょうが。」

「いいの、いいの、たまには気晴らし。」

「気晴らしって、類にいったい、何の気晴らしが必要なの?」

ギロリとにらまれたと思ったら、サッと立ち上がり、手を差し出す類。

「ハイ!」

「・・・。」

「ホラ、早く!先に行っちゃうよ!」

その手を掴んだとたん、クイッと持ち上げられて前のめりになる。

「軽っ!牧野、痩せた?
ちゃんと食わなきゃ、一番に胸から痩せてくって聞くよ。」

「なっ!?//もう、うっせー、類!
そういうこと教えるのは、西門さん?そうでしょう?」

「忘れた。
兎に角、メニュー決定、A定食の特盛りね。」

微笑む口元から白い歯がのぞき、陽光を浴びた薄茶の瞳が私のために笑ってくれる。
そして、さりげない優しさにどれだけ救われてるのか、これからも、多分、ずっとこんな感じかな。

「牧野、これ、捨てとくよ。」

校舎へ向かう途中にあるゴミ箱にポンと投げ込まれたのは、卒業証書のように小さく丸められ、真っ二つに折られた英字新聞だった。
確かに新聞を触ってたけど、いつの間に小さくたたんでいたんだろ。

そう言えば、類って手先が器用だったよな。
寝てばっかなとこも、こんな風に誘ってくれるとこも、高校の時と同じ。

ねえ、私達はどこか成長できたかな?

つづく

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