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17.
あの日から、類が何かに囚われてる。
階段の踊り場では、柵の間を睨みつけ、息が止まるような重い空気をまとっていた。
ある時は、その瞳にまだらな薄雲を映したまま消えてしまうかのようで、あまりに寡黙すぎた。
ああ、どうしちゃった?・・・もともとおかしな所あるけどさ。
病気?微熱でも続いてる?
呼びかけると、薄茶の瞳をキュッと細め、さわやかに口角を上げる・・・いつも通り。
雑談も変わらない。
やっぱり気になって、「どうかした?」って尋ねても、「牧野こそ。」って飄々と返事が返ってくるし。
けど、絶対、変。
よくよく思い出しても少なくなった口数とジョーク。
きっと・・・何かある。
ヤバイ、こんな時、力になってあげなくてどうするあたし。
何ができるだろう。
そんな中、やってきた恒例クリスマス・パーティー。
愛くるしい美作邸が目に浮かんで、旧友との憂さ晴らしに期待し準備に精を出した。
マンションの玄関口で待っていると、磨き上げられた類の愛車が目の前で停まった。
ウィンドウが下がり、類が私の全身を捕らえたよう。
「おまたせ。
おっ、牧野、やっぱ似合う。」
「同じワンピ着なくてすんだよ。サンキュ。」
満足そうに口元に笑みを浮かべる類を見て、ひとまずホッとする。
私は大きくあいた衿元にボアの付いた白いニットを着て待っていた。
類から贈られたクリスマスプレゼントだ。
「・・・司からのプレゼントはつけないの?」
「あのイヤリングとネックレス?」
「うん。」
「だって、赤い石がついてて目立つもん。」
「じゃ、俺の勝ち。」
「・・///。」
ゲームに勝ったみたいに喜んで目を輝かせる人。
少年のようにキレイに微笑むから、いくら友達だといっても、この笑みに気を悪くする女の子なんていない。
結構、胸に響く・・・もうバレバレだろうな。
「牧野クイズがあったら、俺、優勝かも、司を抜いてさ。
俺の方が当てる自信あるし」。
「ははっ・・・そんなのあったら、あたしが出る。」
「俺にしたら?今日から。」
「へ?/////。」
「クッ・・」
類は満足気にアクセルを踏み込んだ。
冗談さえ毎回ドキッてしてしまうのだから私も成長ないけど、相手はF4の類なんだから、致し方ないとしか思えないし、前からのこういう関係=友情の証し?慣れてるし・・・仕方ない。
けど、黙ってるのも負けっぽいから。
「あ、あのさ、じゃあ、お願いしとくよ。
未亡人になったら、そん時にお世話になりますから。」
「ゲッ・・・司、お化けになって出てきそ。
俺、呪い殺されたくない。」
「言えてる。
あと、あたしから言っとくからね。
女子大生にトゥーマッチなプレゼントだから困るって。
だから、類からは何も言わなくていいんだよ!」
類は了解!と鼻先を上に向け、一振り大きく上下に振って、走りのスピードを上げた。
「そうだ、ねえ、類。
今年のプレゼント交換は、ぜったい私の当ててよね。」
「っ・・何?」
「中身、聞きたい?」
「じゃ、聞く。」
「あのね、観戦チケット!ペアよ!
Japanチーム vs NBA有志のチャリティー試合でさ、目玉にBoston Celticsのラリー・BとNY knicksのDavid Leeが来るらしいよ。
K競技体育館で盛大に行われる桜祭りあるじゃない?
あの体育館でするんだって。
遠くないし行くしかないでしょ。」
「バスケ?試合?」
「あったり前よ!ペアチケットだから、類か私かどっちかが当てればいいわけ。」
「俺達以外が引いたら?」
「うん・・・まあ、それはそれで・・・喜んでくれるかと。」
「牧野の勢い見たら、みんな遠慮してくれんじゃないの・・・っ。」
カバンからチケットが入った封筒を取り出し、目の前で願かける。
「今回は当たりますように、ねっ!」
「・・・力入ってんじゃん・・・すごく楽しそう。」
「プレゼント交換は、時を越え万人にとって楽しいもんでしょ!」
「クスッ・・・牧野が、だよ。」
「そうそう、自分で自分を盛り上げてかなくっちゃ。」
フワッと空気が和んだ。
「俺、牧野に似てきたのかな・・・浮上できそ。
楽しみになってきた。」
「・・・」
「・・・ンション、上がる。」
「何が上がる?」
ボソリと聞こえた声の根元には、柔らかな笑みが広がっていて、季節を間違えたタンポポのように目を引いた。
類が嬉しそうにニタリと笑ってる。
心配が霧のように散っていき、考え過ぎでしたってオチの展開。
けどまさか、類の元凶がパッと消えるはずはなく、でも、とにかく今は大丈夫そう!
類の心の中が全部見えなくても、今、横で楽しそうなのだからそれでいい。
楽しそうな顔見ると・・・私も嬉しい。
窓の外は人もネオンも華やいで、クリスマス色でいっぱいになる予感がそこかしこだ。
ちょうどJackson 5のSanta Claus Is Coming To Townが流れ、幼いマイケルの声が車内に響き出すと、類のハミングが重なり出した。
思わず気持ちが弾むような可愛くて軽快なメロディー。
行き先は、甘くて美味しい聖なる祝い。
優しい音色が気持ちよい中、類の満足そうな横顔を見つめた。
落ち込むことがあっても、サンタさんが吹き飛ばしてくれる、きっと。
フ~フ~フ~~♪フフ♪フ~
そんな軽やかな気持ちに包まれた。
つづく
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