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16.
ベットに寝転びながら、例の雑誌を眺めていると、だんだんむかついてきた。
どうしてプロムなのよ。
本場がどんなもんか知らないけど、あれって宣戦布告のだったじゃない!
大切な大切な約束の。
どうして入れたの。
立ち上がり、一週間ぶりにパソコンのキーボードに指を乗せた。
『道明寺、見たよ、週刊誌。
仕事なんだろうけど、他に・・・』
あ~ん、ちがう。
消去。
消去を繰り返した挙句・・・
『道明寺、元気?
こっちは試合で準優勝まで行って、打ち上げ行って帰ってきたところ。
類がバスケ上手くなってるよ、見たらビックリするから。
バスケ以外は変わってないけど。』
それでポンッ!
もう一度、雑誌を手に取り眺めてみた。
それにしても・・・似合いすぎだってば。
嫌味もしらけてきて、天井を見上げながら考えてみた。
もしも・・・って色々。
もしも、私がNYへついて行ってたら。
写真のコネチカット嬢の顔が私とすり替わってた?いや、ブルブルブル~、マジ、勘弁。
F3いないし、だ~れも助けてくれない針の筵だろうし。
ヘラヘラ笑ってる島国育ちのアジア娘が絵になる?
可愛そうに目立つだけでしょ。
あ~、せめて、この体格だけでもメリハリあれば。
もしも、お金払って、ゴージャス・ボディーに改造してもらったらまだ?
いやいや、桜子じゃあるまいし、お金がもったいない。
痛い思いして、誰が払うか。
いっそ、アメリカ人になってしまえば、会話もラ~クラクで、道明寺家パーティーで華麗なるホステスに!
インポッシブル、阿保らし。
結局、道明寺は道明寺、私は私の世界で何も交わってないんだよな。
将来、公の場はずっとパスでよろしくって我儘言えるのかな。
道明寺、あんたは何でもなさそうに言うんだろうけど。
あんたの血管には上流の血が流れてて、こっちはどうせ庶民。
もうすぐ師走、クリスマス商品もあちこちで見かけるようになった。
年内は交流試合を残すのみで、あとは年明けまでspanky’sの活動はお休みとなる。
練習を終えるともう外は真っ暗で、ガラスドアから冷たい隙間風が入ってくる冬日だった。
ふと見ると、外の暗い渡り廊下の先に、類と友里ちゃんが立ち話してるのが見えた。
外はむちゃくちゃ寒いのに・・・。
10分後、再び通ると、二人はまだそこにいて話し込んでいる。
友里ちゃんが話をして、類が一言・二言返しているみたい。
一体何を話してるんだろう?
ドアをあけ、二人に声をかけた。
「もしも~しお二人さ~ん、そんなとこにいたら、風邪引くよ!!」
二人が振り向くと、驚いたような顔していた。
類がこちらに歩き始め、通りすがりに私に、「牧野、帰ろ。」とボソリ。
そして、そのまま一人で中へ入っていった。
友里ちゃんも、トボトボ歩いてきて、近くまでやってくるなり。
「ゴメン、類さんにお仕事のことで相談にのってもらってたの。」
「仕事?」
「ん?まあ、将来のね。
あ~、寒い、中に入って、あったかい物でも飲もうっと。」
「うん。」
体育館の帰りは、行きと同様、類の白いポルシェに乗せてもらった。
「ねえ、今度の相手、身長190センチの選手が2人もいるんだって。
うちにも、橋口さんがいるし、上沼さんや門脇さん、類だって運動神経じゃ負けてないと思うけどさ。
類、頑張ってよねー。
何といっても、終わり良ければ全て良し。
今年、最後の試合だかんねー。」
「・・・。」
「ねえ?類?」
「えっ?何?」
「聞いてなかった?
だから、交流戦、頑張れって。」
「う・うん。
もちろん・・・頑張るでしょ。」
「相手、手ごわいんだってよ。」
「任せろっ。」
少しだけ笑って、拗ねたように口をとがらせる類。
「そういえば、友里ちゃんと外で話してたでしょ?
あたし、お邪魔しちゃったかな。」
「べつに。」
「仕事の相談って言ってたけど。
そっか・・・忘れてた。
3回生の12月っていえば、リクルート?
もう決まってる学生もいるはず、何か言ってた?就職するんだよね、決まったのかな。
あ~相談って、類は一応大きな会社にコネもあるし?
マジで就活が大変だってニュースでやってるもん。
類、ちゃーんと相談にのってあげないと。」
「・・・。」
「就活、大変だって言ってたでしょ?」
「知らない。」
「ったく・・・、肝心なこと抜けてる。」
「・・・。」
「友里ちゃんなら、きっと上手くやれるね。」
「やるんじゃないの。」
類は前を向いたまま、みじろぎもせずに運転していた。
その長い睫が街灯の黄色い光を受け、暗い数本のシャドーを作っている。
鼻筋に強いライトがあたり、綺麗な鼻筋が目立って見えた。
落とされた前髪は二手に自然と掻き分けられ、私の大好きな薄茶の瞳の上にかかっている。
赤信号で車が止まると、前を向いたままの瞳が赤茶に透けて見え、まるで甘い紅茶飴みたいだと思った。
いつもより、固い横顔に見えるのは、強い赤いライトのせい?
両手はしっかりハンドルを握り、いつもよりどことなく、動きが少ない感じがした。
気のせいかもしれないけれど、いつもと違う。
ずっとべったり一緒にいるんだから、やっぱりわかるよ。
話は上の空みたいで、反応が遅いし。
信号待ちには、たいてい私の方を向いてくれるのに、ちっともこっち向かない。
何か変!ってハッキリしてる。
でも、まだ何も知らなかったから、何も言ってあげられずで、合わせるしか出来なくて。
類はあの日、混乱してたはず。
だよね、だよね、誰でもそうなると混乱するに決まってる。
ごめんね、類、ちっとも気付かずだったよ。
アパートが近づくと静かに車が停止し、降りようとした私を類は腕を握って引き止めた。
めずらしくストレートに。
「牧野、待って。」
掴まれた左手首が痛いほど強く握られている。
「もう少し、一緒にいてくれない?」
「?」
「?」
「どしたの?」
類の瞳はあいかわらずの私の大好きな優しいもの。
でも、切羽詰ったようにこっちをじっと見ていて、何ていうか、急に自分の胸が悲しくなって苦しくなってきた。
「・・・類?何かあったの?」
「・・・。」
「ねえ、言ってみて。」
「いや。」
「どうしたの?」
「別に。
ただ、冷えすぎたかな。
あったかいもん食いに行くの付き合って。」
「車の中あったかいじゃん?
じゃあさ、うち来る?パパもいるから喜ぶよ。」
類はいきなり私の左手を引き寄せ、自分の心臓に当てた。
きゃっ!
「ほら、まだ俺の心臓、解凍してない。」
「っ?」
「もっかいちゃんと座って。」
「ど・・。」
類の力は断りきれないほど強く、シートにもう一度体を滑らせた。
「遅いし、外行こ。」
返事を待たずに車を発進させる類。
視線は遠い何かを捉えたように固く、私はただ横からリアクションに戸惑いながら、眺めるしかできない晩だった。
つづく
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