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15.
準優勝のお祝いは、門脇さんの仕事関係先のイタリアン・レストランだった。
それにしても、かなりハイグレード。
体育会系ノータイ、打ち上げグループにはアンマッチで、13世紀の古城みたいな立派なシャンデリアと重々しい絵画が、ジャジャ~ンと備えられてる。
最近のイタリアンって、色数少なくシンプルな内装ばかりと思ってたのに、こんなお店もあるんだ。
「すごーい、この部屋。
ひょっとして、門脇さん、この絵が本物ってことないよねえ?」
部屋の中央にかけてある、森で狩りに興じる貴族達の絵を見ながらつぶやいた。
フレームだけでも目が飛び出るくらい高価にちがいない。
「まっさか、レプリカだろ。模写。」
「ふ~ん。
それにしても、こんな所で酔っ払って平気なの?」
「オーナーの趣味でね、高じてこんな店作ったらしいけど、この不景気で経営が厳しいらしいわ。
どんどん気安く使ってくれってさ。」
門脇さんは、おもむろに類に向き直り、切り出した。
「そいえば、類くん、○○フーズって花沢物産の傘下だろ?
ここに資金提供の話があるって噂聞いたけど、知ってる?」
類だけが、この調度品の中、ひどくマッチしていて、家主のようにリラックスしている。
門脇さんに顔を向け、ゆっくり頭(かぶり)を振る。
「学生だからな、類くんは。」
「入社もしてないのに分かるわけないじゃないですか!?」
「だな。」
「ちゃんと言っときな。 会社のことは聞かないでください!とか。」
「知らない・・・関係ないし。」
類の非協調性はやっぱり神的手ごわい。
まだまだ話題によるわけで、地雷なのが類のバックグランドに関わる話だね。
「“関係ないし”っか。」
お酒が入った上っちさんが、類の口調を真似て小さくボソッと。
周囲に笑いが沸く。
「類くんのそういうのさぁ、けど、どうなんかな。
制約もあんだろうし、面倒そうだけどさぁ・・・でもなあ。」
類は言い返しも、睨んだりもせず、ただ残っていたジョッキのビールをグーッと飲み干しただけ。
一方、上っちさんはなおも続けて、焼肉を焼くみたいに類をテーブルに載せしゃべってる感じだ。
「だって、類くんでも新人からスタートだろ?
もうちょっと、どうよ、言葉に気を遣うっちゅうかさあ。」
まあそれは、私も心配してる。
ようやく、頭をカキカキするリアクションを見せた類。
「お金持ちの人って、窮屈なお見合いに縛られたり、他に職業(しごと)選べないですし・・・可哀想。」
優紀が類の肩をもった。
F4の事、わかってくれてる優紀らしい。
「本社ビルが一等地にあって、優秀な人材がたくさんいるんだろ。
秘書とかも?こう、ナイスバディで・・・。」
「残念ながら、上役の秘書さんは全員男でしたよ。
類、少し答えてあげれば?」
渦中の類はどういう神経してんだか、デザートを選り好み中。
えっ?もう、デザート?
思えば、昔の類は、露骨に無視して、『うるさい!帰る。』と言い出してたかもしれなくて、それを思えばすごい進歩だ。
丸くなった。
だけど、“関係ないし”はない。
それどころか。
「牧野、これ抹茶ババロアだよ。食べる?」って。
器用なくせに社交辞令は・・・。
「あっ、あの、私も聞きました。
このお店、○○フーズさんのお陰で持ち直せるって。」
突然の友里ちゃんの声に、一同振り返った。
見つめられ、あわてる友里ちゃん。
「いえ、詳しくはわからないんですけど、救済されるみたいですよね。
このお店って、誕生日やクリスマスに人気で・・・そんな噂、聞きました。」
「噂が広まってるわけ?」
怖ぇ・・・とつぶやく門脇さんを傍目に、さらに付け加えた。
そんな裏事情が表に出るものなのかな?
「何度か来た事あるお店だし。」
「彼氏と??」
お酒が入ってる面々の誰かが聞いた。
「そんなんじゃないです!!」
友里ちゃんは、無言のままそっぽを向くと、カバンを持って席を立った。
照れ隠しなんだろう。
揺れるポニーテールが本当に似合って、永作博美似で顔が小さく、私より1つ上の3回生で。
どちらかというと大人しいタイプだから、こういう場は慣れてないと思う。
もし、酔っ払いを上手くあしらってたら、友里ちゃんらしくないと思うし。
そっぽを向いて、無言で席を立っても嫌味に見えなくて、不思議としっくりくる。
安売りしない清潔感っていうのかな、この好感の元は。
私が化粧室へ行くと、鏡の前でカバンを閉じる友里ちゃんと出くわした。
「あっ、まだここだったんだ。」
「うん、お先。」
「お酒が入ると、おじさん臭くなっちゃうね、あの人たち・・・ははっ。」
用を済ませ鏡に戻ると、まだ友里ちゃんはそこにいて、何やら手に持っている。
待っていてくれた?
「あれぇー、どしたの?」
「うん。
あのね。
唐突だけど、聞いていい?」
「ん?」
「つくしちゃんって、F4の道明寺さんと婚約してるの?」
「は・は・はいっ??」
まだ恋人話をしたことない私達。
確かに唐突だ。
「有名な話だもん。
つくしちゃんとこれだけつき合えば、あの女の子だってわかってくるよ。
あのテレビの。」
「あー、あのバカ、テレビで公言してからあっちに行ったからね。
まったく恥ずかしいっつうのーーー、あの後が大変だったんだよ。」
「で、どうなの?お付き合いは?」
真面目な顔で聞かれ、これはちゃんと答えないと。
「まあ、腐れ縁?
夏休みに会ってきたけど、まだ解消って話は聞いてないから、多分、付き合ってると思いますけど。」
友里ちゃん安心したような、それでいて、迷ってる風な表情を見せた。
「これ、出たばっかりの週刊誌なの。
気を悪くしないで。」
開かれたページには、道明寺がきれいな外人さんと見詰め合い、秘め事でも囁いているような至近距離の二人が掲載されていて、見出しもズバリそのもの。
「婚約秒読み!!道明寺家御曹司、州議員の娘ミス・コネチカット本命?!
ふーん・・・・・・・・・、また出たんだ。」
「また?びっくりしないの?」
返事よりも、記事を追うのに夢中だった。
フム・フム・・・大学のプロムへ・・・えっ、あいつ、プロムなんかに行ってるんだ?この女と?
お仕事なんだろうけど。
その後、二人で消えた??
なによ、これ!
「あの・・・それ、あげるから、どうぞゆっくり。」
申し訳なさそうな友里ちゃんの声。
「あっ、ごめん。」
友里ちゃんは何か言いたげにじっとしていた。
「もしかして、それをあたしに言おうか言うまいか考えてた?」
体育館で見ていたのは、そういう理由だったのか。
「まあね。
平気? 彼氏がこんなことして。」
「あたしが張り合う場所じゃないし。」
「婚約なら・・・将来、道明寺さんと結婚するわけでしょ?」
「まあ、つきあってるし?」
「じゃ、花沢さんとはどういう関係?」
「へ?類?・・・
そうだね、いい仲間・・・?
お目付け役だって、本人は言ってるけど。」
トイレの扉が開き、にぎやかなグループがどっと押し寄せたので、退散する事にした。
途中、黒服の店員さんが友里ちゃんにお辞儀して、そのことを突っ込むと、「何度か来た事あるからだ」・・・って。
お得意さんなのかもしれない。
席に戻ると、類はとっても眠そうだった。
目が合うと、瞬時にニッコリされて、私も思わず微笑み返す。
そうだよね・・・このキャッチボール。
ただ、日々交わされるそんな触れ合いに癒されてきた。
すっと胸に入って、心の中を穏やかにリフレッシュしてくれる。
気持ちよさそうな、洗い立ての真綿のようにやわらかな微笑み。
勝手な解釈だけど、私だけそんな微笑みを許され、もらい続けてる。
『・・・いい仲間・・・』か。
そう思いながら、類を眺めてみた。
随分、長くべったり、共に時間を過ごしてきた仲間。
その分、類のことたっくさんわかったし、逆に類は私自身より私をわかってるって言うくらいだし。
けど、ははっ・・・今日は新発見。
少しだけ頬が紅潮した類は・・・ミルキーのポコちゃんみたい・・・はははっ、20歳(ハタチ)の男なのにミルキーだよ、ミルキー。
言ったら拗ねるから内緒、そんな薄情な仲間だったりする。
明日、久しぶりにミルキーを買ってこよう。
でも、忘れるべからず!
天下のF4、類だかんね。
抹茶ババロアに手を伸ばしてみた。
つづく
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